保育園では年少・年中・年長となる3~5歳児。親からすれば、乳児から幼児へと移り変わる時期でもありつつ、小学校入学を意識しながら子育てをしていく時期です。一方、日本の教育は過渡期にあって、これからどんどん教育改革が行われていく状況のなかで、3~5歳児を子育て中の親は、どのような子育てをしていけばいいのでしょうか? 保育士として12年間、保育に携わってきた大阪教育大学准教授の小崎恭弘さんに、これからの子育てや教育について話をお伺いしました。

先行き不透明な社会で、親も子育てに迷う?

―― 2年後の2020年、教育改革とともに大学入試改革も行われて、日本の教育は大きく変わっていくといわれています。今、子育て中の親は、わが子をどのように育てていけばいいのか、迷いもあると思いますが、これからの3~5歳の幼児教育はどのように変わっていくのでしょうか?

小崎恭弘さん(以下、敬称略) 今、日本の教育の目指す方向は、まさに過渡期のなかにあります。誰も答えが分からないような先行き不透明な社会であるが故に、明確なモデルがない。そんな時代を今の子どもたちは生きていかないといけないわけですよね。

 最近、私は中学校や高校でライフデザインの授業をする機会が多くなりました。なぜ、中学生のうちからライフデザインを意識する必要性があるのかと言えば、「誰も答えを見つけられないこれからの社会で、どう生きていくのか?」ということが重要なテーマになってきているからです。つまり、今の子どもたちは“モデルなき社会”を生きていると言っていいでしょう。だからこそ、自ら人生を切り開いていく力が必要になってきているということです。

 親からすれば、10年前、20年前を思い出していただければ分かりやすいと思います。職業ひとつとってみても、当時はなかった肩書きで仕事をしている人が周りにたくさんいるのではないでしょうか。それだけ時代の変化やスピード、あるいはその振れ幅が想像以上に大きかったり速かったりする。これが答えだと思った瞬間、もう次のことが始まっているわけです。まさに子育てや教育も同じような流れのなかにあるので、見ていると親も子育てについて迷っているといった感じがしますね。

親の意識がダイレクトに反映される

―― これからの子育てにおいて、日本の教育がどこを目指していくのかを知っているのと知らないのとでは大きな差が出てくるということがありそうですね。

小崎 それはあるでしょうね。教育というのは、本来、社会階層を攪拌する役割があったと思います。例えば、「末は博士か大臣か」みたいな、とにかく勉強がデキる子どもであれば、社会階層を飛び越えて優位な階層に行けるといった時代があり、それが教育の一つの機能でもありました。しかし、今の教育は、逆に格差の固定化に寄与する形になっているのではないかという気がしています。

 よく言われるのは、同じような学歴の人と結婚する人が多いという話ですね。大卒の人は大卒の人と結婚し、高卒の人は高卒の人と結婚するといったパターンが多い。これまで、日本は一億総中流といわれ、格差や階層が比較的緩やかな社会だったけれども、そうではなくなってきた。特に教育に意識の高い層と、そうでない層の間にいろんな意味で格差が出てきていると言っていいでしょう。

 ある調査で興味深かったのが、世帯収入の高い層ほど、教育費の負担を多く感じているということ。なぜかと言えば、世帯収入が300万円以下の家庭では、教育にお金をかけません。だから、負担に感じることがないわけです。一方、世帯収入が高ければ高いほど教育にお金をかけようとするので、教育費に関する負担感が大きくなってしまう。つまり、最終的に親がわが子にしてあげられることといえば、教育に集約していくということになっているのです。

 そういう意味では、これからの教育がどうなっていくかということを知っているか否かで、格差が出てくると言えます。なぜなら、教育に対する親の意識や知識、価値観というものがダイレクトに子どもの教育につながってくるからです。

 近年、「教育の再生産」などとよくいわれますが、東大に合格した人の家庭は親が東大卒である割合が多い。私は大阪教育大学で仕事をしていますが、聞いてみると親が学校の先生だという学生が非常に多い。それだけでなく、親も大阪教育大学出身だという学生もけっこういます。このように、家庭を含めた教育格差というものが、これからますます顕著になるのではないかと思います。

教育に対する親の意識や知識、価値観というものがダイレクトに子どもの教育につながっていく
教育に対する親の意識や知識、価値観というものがダイレクトに子どもの教育につながっていく