この大きな展開が2018年度にスタートし、2年後の2020年度には小学校の学習指導要領が変わります。さらに3年後の2021年度には中学校、4年後の2022年度には高校の学習指導要領が変わります。また、今、中学校3年生の子どもたちが大学生になる頃には大学入試改革も行われます。センター入試が改定され、大学入学共通テストと呼ばれるものになります。

 大学入試改革後、実際にどのような入試になるのかといった具体的なことはこれから決まっていくことになりますが、教育改革が進められていくなかで「知識・技能の基礎」「思考力・判断力・表現力等の基礎」「学びに向かう力・人間性等」という3つの資質・能力を育む教育というものを見据えています。

小崎氏作成資料(出展:新しい学習指導要領の考え方/文部科学省)
小崎氏作成資料(出展:新しい学習指導要領の考え方/文部科学省)

 この3つの資質・能力を育む教育が幼児教育からスタートして、それが小学校、中学校、高校、大学と一貫する形になります。つまり、日本の教育そのものに、今年度から横串と縦串が入るイメージですね。それが幼児教育からスタートして、どんどん積み上げられていくようになるわけです。

 特に今、3~5歳の子どもたちはその教育の先駆けとなるわけですから、親の皆さんには知っておいていただきたいと思います。なぜなら、この3つの資質・能力を養う教育は、幼児期である今だけではなく、小学校、中学校、高校、大学と、この先ずっとつながっていくことになるからです。

 今までの幼児教育というのは、お遊戯をして楽しく過ごし、小学校教育からきちんとした教育が始まるといったイメージでしたが、これから変わっていきます。3つの資質・能力を幼児教育のなかで育てることによって、小学校教育にうまくつながるような体制になっていくのです。そんな連動性のある新しい日本の教育のなかで子どもたちが育っていくようになるのです。

認知能力から非認知的能力へ

―― 変わりゆく教育というのは、分かりやすく言えばどういうことになるのでしょうか?

小崎 これまでの教育は、カンタンに言ってしまえば、数値で測ることができる偏差値重視の教育であったということですよね。言い替えれば「認知能力」を重視した教育で、何をするにも答えがひとつといったイメージです。決まった答えがあって、その1つの答えに速く正確にたどり着けるほど偏差値が高くなる。スピードや正解率で測ることができるといったものでした。

 しかし、ますます多様化していく社会では、先行き不透明であるが故の混乱もあります。そういったなかで、答えが一つではない事柄に関する課題や問題に取り組んでいったり、対応していったりすることができる人材を育成していくことが教育において大きなテーマとなってきている。そこで、偏差値では測れない力、例えば目標を達成しようとする意欲であるとか、粘り強さ、正義、人との関わり方、自尊心などといった「非認知的能力」といわれる力が、これからの時代を生き抜いていくなかでは大事になっていきます。

 今の時代においてもそうですが、非認知的能力が備わっている子どもほど学力が高く、大人になってからもしっかり働いていける。そういった研究結果が、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授の著書『幼児教育の経済学』のなかで明らかにされて話題になりました。著書のなかで彼は、非認知的能力の高い子どもほど、生涯にわたって“稼ぐ大人”になると述べています。それが今後はより顕著になるであろうと考えられている。そこで、日本の教育でも反映されるようになり、今回の改訂の柱にもなっているといっていいでしょう。

 なかでも、先ほど挙げた3つの資質・能力のなかの一つ、「学びに向かう力」は社会情動的スキルと呼ばれていますが、その名の通り“スキル”ですからトレーニング可能です。これまでは、“地頭が良い”などといった漠然とした言葉が使われたりもしてきましたが、それではなかなか鍛えようがないですし、生得的に決まっているようなイメージです。

 しかし、これからは、そういった力を伸ばすためのプログラムを幼児教育のなかできちんと整えていこうというのが、今回の改訂の大きなポイントでもあります。これは、幼児教育の現場だけの話ではなく、家庭のなかでも親が同じような視点や意識を持つようにしておくといいと思います。