これからの教育に必要なのは、多様な価値観

―― これからの教育改革のなかで、学歴などにこだわらない社会になっていくような雰囲気も感じられますが、そうではないのでしょうか?

小崎 確かに、今のところは偏差値教育や学歴社会から脱しようとする流れはあると思います。しかし、そこから脱しきれないでいるといった状況。そのため、まだ一部にとどまっているといった感じなのではないでしょうか。

 昨年、大阪市内のトップクラスの進学校といわれる高校でライフデザインの授業をしました。1年生対象で200人以上の生徒に向けて授業をしたのですが、私の感覚ですが、4分の1くらいが疲れているんですよね……。その地区のトップ校といわれる、ものすごく偏差値の高い高校に入るために勉強をして合格した生徒ばかり。たぶん、入学直後から一生懸命、勉強し続けていると思うのですが、とにかく、疲れているんですよ。なんだか、彼らの表情を見ていると先生や社会、大人や親に「私たちはどこまで頑張って勉強をしたらいいの?」って聞いているような気がしたんですよね。

 皆さんだったら、どう答えますか? これは、とても難しい問いであって、先生も答えを用意できないでいると思います。そこで、「分からへんけど、とにかく頑張りや!」って言うしかない(笑)。感覚としてはそういう感じです。どこがゴールなのか。それが、誰にも分からない。かといって、歩みを止めるワケにもいかない。生徒たちはゴールのないマラソンを走らされているような気がして、疲れているように見えてしまったんでしょう。

 ゴールの見えないマラソンほどキツいものはありません。しかもペース配分も分からなければ、どこで水分補給など休憩していいのかも分からない。それでも、進学校に合格するような子どもたちですから、基礎体力はあるので、4分の3の生徒は走り続けることができます。しかし、4分の1の生徒は脱落してしまう……。そういった状態が、今の超進学校といわれるような高校の実態であるような気がしています。

 今の教育のなかで、子どもたちはひたすらゴールのないマラソンを走らされていて、最後まで走りきる体力のある子どもたちがエリート的になっていくとか、勝ち続けていくというイメージ。でも、これからの教育においては、そういった現状から脱していくようになり、多様な価値観を持った形にシフトしていくようになるだろうと思います。

4月からスタートした幼児教育改革

―― 2年後の2020年度、教育改革が行われるとともに大学入試改革も行われるなかで、親はわが子をどのように育て、教育環境を与えていけばいいのかと迷うことも多いと思います。現在、3〜5歳の幼児教育はどのような状況になっているのでしょうか?

小崎 実は、今年度の4月1日から幼稚園の教育要領と保育園の保育指針、認定こども園の教育・保育要領と、それぞれが10年ぶりに改訂されました。これまでは各施設ごとに要領や指針がバラバラに存在していたのですが、今回、この3つが初めて統一され、横串が入るような形になりました。この統一されたもののなかで、注目されるポイントは、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」というものが明記されたことです。

 これまで、幼児教育においては、要領も指針もあまり具体性がなかったのですが、今回、文部科学省と厚生労働省、内閣府の3つの組織が日本の幼児教育のなかで初めて統一したものを作ったのです。「トリプル改訂」と呼ばれていますが、実は幼児教育においては、とても大きな出来事。それが、まさに今年度の4月からスタートしています。

小崎氏作成資料(出展:新しい学習指導要領の考え方/文部科学省)
小崎氏作成資料(出展:新しい学習指導要領の考え方/文部科学省)