時に迷い、立ち止まりながらも、自分流の働き方や幸せを模索している働くママたち。今回登場するのは、関東でも有数の進学校として知られる中高一貫校で、数学教師として32年間教べんをとり続けているAさん(仮名)です。Aさんは、夫が転勤族でほぼ不在というワンオペ環境の中、現在社会人1年生となった息子の子育てと教師の仕事を両立させてきました。そんなAさんに、教師としての仕事に対する思いやこれまでの両立生活などについて聞きました。

(前編)有名進学校の教師ママ 生徒の家庭見て感じることは
(後編)高偏差値中高一貫校の教師ママ、息子は塾なしで中受 ←今回はココ

◆今回登場するワーママ:Aさん
年齢:54歳
仕事:中高一貫校数学教師(新卒で教師になり、転職経験なし)
子ども:社会人1年生の息子

◆「わたし流」の働き方をかなえるためにした選択
選んだもの…自分一人で仕事と子育てを両立していくという覚悟
諦めたもの…転勤族の夫や高齢の親を頼ること

 勤務先は高偏差値帯の有名中高一貫校。Aさんは、親から優秀な成績をキープし続けることを期待され、現実とのギャップの中で葛藤する多数の生徒や保護者と接してきました。自身の子育てにおいては、「勉強ができて当たり前」「大学受験でMARCH*は滑り止め」など高偏差値校特有の偏った偏った感覚にまひし、息子にもかぶせてしまうことがないように気を付けてきたといいます。

*明治大学・青山学院大学・立教大学・中央大学・法政大学を指す

息子には塾通いよりも小学生時期に必要な経験を

 子育てで特に大事にしてきたのは、息子にはわが道を歩んでほしいということでした。背景にあったのは、キャパシティーを超えて習い事や勉強をさせられて入学してくる生徒を見てくる中、小学生には小学生らしい生活が必要だと思っていたことです。

 勤務先の学校には、中学受験期に塾の勉強さえしていればいいとばかりに、「運動会はそこそこでいいよ」「6年生の3学期になったら学校は行かなくていいよ」「学校の宿題はしなくていいよ」と受験への「近道」だけを歩いてきた結果、合格を勝ち取った生徒も少なくありません。

 こうした生徒たちの中には、「近道」のためには学校行事などは参加しなくてもよしとする価値観を自分の中に取り込んでしまっていたり、塾での与えられる一方の手厚い勉強スタイルに慣れ、自分で考える力がついていなかったりする子もいて、違和感を持つことが多いのです。

 生徒から、「どうやったらテストで点数取れますか? どこが出ますか?」と質問され、「自分で考えなさい」と答えると、「学校は面倒見が悪い」と保護者からクレームが来るケースもよくあります(苦笑)。

 いろいろな経験をして、自分の頭で考えることは自分らしく生きていくために必要なことです。息子には塾や習い事といった学ぶ環境を親から一方的に与えるのではなく、友達とたっぷり遊び、学校行事にまい進し、子どもらしい趣味の時間を過ごすなど、小学校時代に小学生として必要な経験をたっぷりしてほしいと考え、それを子育てする上での判断基準にしてきました。