患者と家族に寄り添う看護師でいたい

 このCCUに勤めた期間には、もう一つ、私が看護師として働いていく上での仕事観に大きく影響した出来事がありました。

 2年目のときに、若くして肺の機能が悪くなり人工呼吸器を必要とする患者を受け持つことになりました。人工呼吸器をつける際は、気管支に管を入れるケースがあるのですが、これは麻酔が必要なほど苦しいものなのです。こうした治療の継続は、病態が悪く、治る見込みが低い場合、患者に苦しみのみを与えてしまう可能性があります。そのため「苦しませないこと」を最優先に考え、過度な治療を控えるという選択肢も尊重されるのが現代の医療です。

 このときも医師たちは、かなり厳しい状況にあって「治る見込みが望めないならば、これ以上は治療よりも本人の苦痛緩和を優先していく」という選択肢を家族に受け入れてもらいたい考えでした。一方、妻は何があっても治療を頑張って続けたいという意向だったのです。

 医師と家族の相反する姿勢に看護師としてどう関わるべきか悩みました。先輩看護師にも相談を重ねた結果、私が選んだのは看護師としていかなるときも家族の支援者であり続けるというものでした。麻酔により会話ができなくても毎日面会に来る妻に、「つらくても、この治療に望みをかけて一緒に頑張りましょう」と声をかけ、寄り添いました。

 奇跡的なことに、この患者はその後病態が改善し一般病棟へ移ることができたのですが、その際妻が泣きながら「苦しむ夫を目の前にしていちばんつらかったとき、それでも治療を継続したいという私を支え続けてくれてありがとう」と言ってくれたのです。

 「看護師の自分には治療はできないけれども、支援はできるんだ」と、実感しました。それと同時に、患者とその家族に寄り添っていこうという、看護師としての自分の方針がはっきりと見えた瞬間でもありました。

 この病院では一般的に3~4年に1度異動があるのですが、私は退職するまでの10年間ずっとこのCCUに勤務し、仕事を通じて成長することの喜び、そして看護師として働くやりがいなど、多くのことを学びました。