多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校(以下、多摩聖〈たまひじ〉)は、1学年3クラスという小規模校ながら、近年は国公立大学や医学部など難関大学への合格者が顕著だ。2017年度大学入試では、理系クラスの5人に1人が国立大学に合格。立地を生かした独自のアクティブ・ラーニングを実践してきたが、2018年度には新たに夏休みの講座「A知探Q(えいちたんきゅう)の夏」を始動。その講座の内容や、導入して5年目を迎えた適性検査型入試の成果など多摩聖の「今」を探る。

 多摩聖には、全生徒と面談する名物校長がいる。五十嵐一郎校長だ。一度も校長室に入ったことがないまま卒業する生徒が多い中、「気軽にきてほしい」という思いで校長室に生徒を一人ずつ招くようになった。少人数の学校だから可能なことで、1人20分ほどかけて将来の夢について語ってもらい、じっくり話すことで仲良くなる。面談後は生徒の方から声をかけてくれるなど、ぐっと距離が縮まるそうだ。

 校長によるwebブログ「五十嵐校長の授業参観記」は保護者に評判だ。学校の取り組みが随時紹介され、細部にわたって校長の目が行き届いていることがわかる。文化祭では、すべてのクラスの演劇を鑑賞する。とても身近な存在として生徒に寄り添う校長のもと、同校は「よい」と思った教育プログラムは積極的に取り入れていく。

 元来、「自律と協働」の精神を涵養し、高度に情報化、グローバル化した社会に対応すべく、次の3つの方針を根底とした教育を実践してきた。

 1. 少人数できめ細かい指導
 2. 本物から本質に迫る教育
 3. 主体性と協働性の育成

 この教育方針を実践できるのも、中1から高3まで全校生徒を合わせても約700人という東京都内の共学校では希有な少人数教育を行っているからだろう。中高一貫教育の特性と少人数制を生かしながら、段階的な成長を促す仕組みづくりを多彩に取り入れることで学力の土台となる力を養成している。

 中でも、同校が得意とするのはアクティブ・ラーニングだ。特に2018年度に始動した「A知探Qの夏」は、「英知」「探究」に掛けたユニークな名称ながら期待が大きい。

多摩丘陵の自然豊かな環境で学べる、1学年約120名の少人数制の共学校

「A知探Qの夏」が実現した、教科にとらわれない発展的な学び

 「A知探Qの夏」は、これまで多摩聖で実践してきた体験型教育の集大成ともいえる内容で、全28講座の中から生徒が自分の興味関心で選んで受講する。1講座につき4日間、夏休みを活用して集中的に行うため、課外での活動も容易となった。従来の教科学習を行うサマーセミナーを縮小してもなお、アクティブ・ラーニングを優先させたのは、「教科にとらわれない学習で発展的に学び、生きる力を育む」ための英断だ。

 「同じような探究型の学習は、国語科や社会科、理科では数年前から実施していました。ただ、2020年の国の教育改革に準じて再編する必要がありました。今まで以上に一般教養に踏み込んで自ら考え、議論し、答えを導く講座を充実させようと、全教員から開講テーマを募集し、実行可能なものを28講座に絞り込みました。1講座4日間、夏休みに行うため、宿泊を含む課外実習も可能です」と話すのは、入試広報を担当する石飛一吉教頭だ。

 1学年約120名という小規模校であることを教育の柱にする同校だからこそ中1~高2まで全生徒を対象としてスムーズに実施できたといえよう (高3は受験講座を中心とし、希望制である)。しかし、「A知探Qの夏」を実施したきっかけには、少人数制のデメリットを補完する目的もあった。   

 「少人数制には一人ひとりの生徒に目を向けたきめ細かい指導など多くのメリットがある一方で、校内だけでの活動では価値観のバラエティが乏しくなります。そのためにも、教員だけでなく、地域の方々との関係もつくり、多様な価値観にふれてもらう目的があります。外部の方の専門性をお借りしながら、生徒が自ら考え答え導き出す場面を意識的に作る必要があるのです」と石飛教頭。

 1年目となった今夏の一番人気はボルダリングだったという。一見、ボルダリングと探究心は結びつきにくいが、「そもそもボルダリングをしたことのある生徒は少ない。自分が経験したことのないものとの出合いが大事なのです」と石飛教頭は話す。他には歌舞伎の隈取りや発声を体験して鑑賞もする「歌舞伎を見に行こう」、笑いを学ぶ「落語ってこんなに楽しいの!?」、電流で調理する「電流回路とホットケーキの科学」、英語でニュース原稿を読む「ドラマティックリーディング」、農業体験を行う「ブルーベリーの未来」、カンボジアに行く「国際貢献」など多岐にわたる。

スポーツクライミング「ボルダリング」を実体験することで、自らのベストを目指す意欲や態度を育てる
芸術鑑賞会で学んだ歌舞伎をさらに深掘りする。隈取りなど、一生に一回の貴重な体験も

長期間かけて行う講座もあり、事後報告書で、読解力、表現力、論理力も磨く

 「国際貢献」は例外として、夏休みは事前学習を行い、8カ月かけて準備し、3月にカンボジアに行く。

 「現地では、アンコールワットの修復現場の見学や孤児院訪問など国際貢献の在り方をさまざまな角度で実体験してきます。また、私が担当する『社会科フィールドワーク』では、会津若松の商店街を訪ね、実地調査を行いました。地元の大学生や市役所や商工会の方々の協力を得て、地元商店街にインタビューをして地域の活性化をいかに実現するかを探りました」(石飛教頭)。

 特徴としては、学年で区切らず縦割りで募集する講座を設けていることだ。上級生となる生徒が自然とまとめ役を担い、グループワークを通じてリーダーシップを育てることができるという。また、いずれの講座も、事後報告書を書き、文化祭でポスター発表やプレゼンテーションを行う。

 「『A知探Qの夏』の最大の目標は、新しいクエスチョンをもってもらうことです。従来の正解のみ教える教科書通りの学習では、21世紀型の教育に対応できません。自ら答えを導くことで、新しい探究が生まれます。そのためにも言葉にこだわり、最後に報告書を書き、中1から継続して読解力、表現力、論理力の3つを鍛えます。これらの力は、中3で執筆する4000字の卒業論文にも生かされます」とその効果にも触れた。

弾薬庫を舞台にした映画「日輪の遺産」や、明治大学登戸研究所などの身近な戦争史跡から、戦時下の社会や人々の様子を探る

勉強は新たな自分と出会うためのツール

 「A知探Qの夏」を支えるのは、日常からの教科学習に依るところも大きい。理科では、1年回に35回、3年間で100回を超える実験実習を行い、実験実習ノートを自作することによって、大学生になった卒業生からは「大学のレポートが苦にならない」「他の学生がどこから手をつけたらよいのかわからないという中、率先して実験の準備ができる」などの声が聞かれるという。また、暗記ものと思われがちな理科の定期試験も、授業で学んだことを言葉でアウトプットするために記述式に移行中だ。

 社会科では、中1は「地域見学」を行う。中1の場合、通学以外で電車に1人で乗ったことがないという生徒もいるが、歴史に関わる場所に現地集合・解散する。ここでも、ワークシートをしっかり書かせることで学んだことを表現する力を身につける。さらに国語科では、離れた自治体の職員に、広報活動における効果的な伝え方などスカイプを使ってインタビューしたことも。

 石飛教頭は「何のために勉強するのか」と生徒に問われれば、「新しい自分に出会うため」と答えるという。「勉強は大学や就職のためでも、人生を楽に生きるためのものでもありません。学ぶことで新しい世界が広がり、その世界を見るために必要な原点なのです」。

6年間でまいた種が芽吹くとき、自由な発想で輝く人に

 同校が、公立中高一貫校が行っている適性型検査を入試に導入して5年になる。検査内容は公立と比べて分量は少ないものの、難易度は同程度のものを用意する。

 「適性型検査対策をしてきた生徒たちは、入学当初は知識量や計算力の面では一般入試の合格者に比べて劣ります。しかし、文章表現がしっかりでき、熱心に学ぶ姿勢をもっているため、学習は1学期の間で追いつきます」(石飛教頭)。

 2年次まで適性検査型入学者のみのクラスだが、中3で混合クラスとなった時に、クラスでリーダーシップをとれる生徒が多いという。「教科以外でも光る子たちを入学させたい」という思いは、やはり多様性を育む大きな要因となっているようだ。

 最後に石飛教頭は「型にはまらず、自由な発想ができる人を育てたい。ただし、客観的事実に基づく発想ができる人です」と話す。多摩聖の6年間で、その種がまかれる。「芽吹くのは卒業して10年後でもいい」という石飛教頭の言葉に、多摩聖の教育の本質がある。

「A知探Qの夏」の考案など、学内のアイデアマンという一面を持つ石飛一吉教頭

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