普連土学園は、アメリカ・フィラデルフィアのキリスト教フレンド派(クエーカー)婦人伝道会の人々が、新渡戸稲造と内村鑑三の助言により、1887(明治20)年に創立した学校だ。創立以来、小規模校ならではの家庭的な雰囲気を保ち続け、フレンド派のネットワークを活用した国際交流プログラムも充実。キリスト教精神を基盤とした豊かな人間教育について、校長の青木直人先生に伺った。

多彩な表現の機会を通じてコミュニケーション力を磨く

 「人は誰であれ、かけがえのない価値を持った、限りなく尊い存在である」「神の前で人間は平等である」普連土学園の教育は、そんなキリスト教フレンド派の信条を土台としている。教室に教壇がなく、教師が生徒と同じ目線で対話を重ねる授業風景は、まさにその象徴といえるだろう。

 キリスト教の学校として礼拝を大切にしているのはもちろんだが、普連土学園の礼拝は、ただ宗教や聖書について学ぶだけではなく、一人ひとりの表現の場になっているのが特色だ。生徒も教師も分け隔てなくみんなの前に立ち、考えていることを自由にスピーチする機会が設けられているのである。1学年3クラスの小規模校とあって、その機会は全員に何度も回ってくる。こうした経験の積み重ねによって、人前で考えを話す力、聞く力が自然に身につくのだ。一方、20分間完全に沈黙を守る「沈黙の礼拝」が毎週実施されているのもユニークだ。ことばがあふれる時代だからこそ、心静かに黙想する時間はとても貴重だ。

 加えて、多数派が少数派をねじ伏せることのないように、学級運営や行事運営の場では、どんな小さなことでもていねいに話し合うことを大切にしている。これについて青木先生は、「自己主張や自己表現は今の世の中に求められている重要な能力です。だからこそ、その力を自分一人のためではなく、社会のため、他者のために使ってほしい。キリスト教精神に即した『奉仕の心』を養えるよう、学校生活のさまざまな場面で配慮しています」と話す。同校の考える「コミュニケーション力」とは「ディベートで相手を言い負かす力」ではなく「対話を通してよりよい着地点を見つけ出す力」なのだ。

 真のコミュニケーション力を伸ばすため、みずから考え、表現し、他者にわかりやすく伝える力を磨く「進路プログラム」も用意されている。中1では普連土学園について調べたことを文化祭で発表し、中2では「地域研究レポート」を作成、中3では「職業研究」と「社会科論文」に取り組む…。学年が上がるごとに視野の広いテーマが与えられ、みずから研究し、その研究成果をレポートや論文にまとめて発表する。

 礼拝、授業、学校生活のすべてで、聞く、読む、書く、話すといった総合的な表現力を磨く環境が整っていることがわかる。

少人数教育と国際交流で「生きた英語」を学ぶ

 日本国内のフレンド派唯一の学校として、世界とつながる普連土学園では伝統的に国際交流が盛んで、実践的な英語教育にも定評がある。

 授業ではネイティブスピーカーの専任教員を3名と非常勤講師1名を配置し、少人数制を徹底。中学では週6時間を英語に充て、劇やゲームを取り入れたり、タブレットを使った英語スキット作成に取り組んだりと、体全体で生きた英語が学べるように工夫されている。また、オリジナル教材を使ったリーディング授業や、充実した補習などで、大学入試を突破するための英語力もしっかり養成している。

 このほか、姉妹校であるオーストラリアのホバート・フレンズスクールとの交流や交換留学制度、英語だけで過ごす2泊3日のイングリッシュ・キャンプ、海外からの訪問客による英語の礼拝など、国際交流プログラムも多彩。高1・2の希望者を対象に、フレンド派の創始者ジョージ・フォックスの足跡をたどるイギリス研修旅行も実施している。

個々の資質を伸ばす進路指導で多くの卒業生が理系に進学

 近年では、理系進学者を多く輩出する「理系に強い学校」としても注目されている。2018年度は、国公立大医学部を含め、現役で大学に進学した生徒の4割以上が理系に進学。また、工学系学部への進学者が目立つことも同校の特徴だ。

 理科の授業では、中学のうちから身近なものを題材にした実験や観察を数多く取り入れ、中1で約50回、高1では約30回の実験を実施。文理選択時までに論理的思考力や物事に対する探究心を高め、科目の得意・不得意で安易にコースを決めないよう、きめ細かく指導している。また、中2からは理科4分野の授業はそれぞれの専門教員が担当し、高度な内容に触れられるようになっているほか、2015年度からは放課後に自由に参加できる「教養講座」の一環として、ロボットプログラミング講座も開講。多くの生徒が自発的に学び、外部のコンテストなどにも積極的に挑戦している。

 こうした理科教育の充実に加え、「本当にやりたいことを見つけられる環境」こそが、理系を含む多様な進路選択の後押しになっているのではないかと青木先生は話す。「大学の工学部に進学した卒業生が、想像以上に男子学生の占める割合が大きかったことに驚いたという話をよくします。本校なら周囲を気にせず自分がやりたいことに邁進できますし、どんな進路にも対応できる環境も整っています」

 文理の枠にとらわれず、自分だけの学びを自由に組み立てられるカリキュラムもその一つだ。同校では、高2 の文理選択後も文系クラス、理系クラスといった分け方はしない代わりに選択科目の幅を大きく広げ、高3では時間割の半分が選択科目という自由度の高いカリキュラムを導入しているのだ。

 グローバル社会で必要とされるコミュニケーション力を育む教育と、一人ひとりの資質を伸ばす進路指導。時代を見据えた同校の取り組みによって、多くの生徒が自分の力を最大限に生かせる未来を見つけている。

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