2020年に創立80周年を迎える富士見中学高等学校では、その記念事業として新校舎の建築が進められている。普通教室がある本館、特別教室を含む西館に続き、2018年7月には図書館が完成。生徒は充実した学習環境を活かして勉強や行事運営などで自主性を発揮し、国際交流にも積極的に挑戦している。新校舎の完成とともに進化する同校の教育について、校長の板倉清先生に聞いた。

新校舎にICT環境を整備。2018年夏に図書館も完成

 「純真・勤勉・着実」を建学の精神とする富士見中学高等学校は、西武池袋線「中村橋」駅から徒歩3分の便利な場所に立地する女子進学校だ。

 2020年の創立80周年に向けて、2014年3月から新校舎の建築に着手。2015年に中学・高校の教室がある本館が完成し、新校舎のシンボルとして新設された大階段の「センターホール」は学年を超えた交流の場となっている。2017年には特別教室を含む西館と、テニスコート6面がとれる人工芝のグラウンドが誕生した。

 西館には理科実験室などの特別教室のほか、習熟度別授業や選択授業で使う「選択教室」がある。さらに、教室サイズの「コモンスペース」を1室ずつ学年ごとに設置し、学年の目標や活動スタイルに合わせて生徒が運用。共同作業や調べ学習、作品の展示など、多様な学びの場として活用されている。

 新校舎建設に伴い、選択教室を含む全教室にICT環境を整備し、生徒用のモバイル端末を導入。2学期からはグループ学習等で端末を使用し、「調べる」「まとめる」「発表する」活動が始まる。校長の板倉清先生は、「今後は部活動や生徒会活動など、授業以外の場面でも生徒によってICTが活用されていくでしょう」と話す。

「探究ルーブリック」を導入し“生徒主体の学び”を活性化

 各教科で探究型学習に力を入れている同校では、生徒が主体となって学びを深められるよう指導体制を整えている。講義形式の授業だけでなく、生徒同士で教え合ったり、話し合ったりする活動を重視している。「課題設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現」という研究の過程を教員同士で共有し、情報収集の際には、生徒が図書館で効率よく情報を集められるよう司書教諭もサポートする。

 グループワークを取り入れることによって、生徒同士の情報交換や意見交換が活発になる。そして、そこで生まれた対話を通して、生徒一人ひとりが多角的な視点で課題を掘り下げていくのだ。

 このような“生徒主体の学び”の効果を高めようと、同校では「探究ルーブリック」を導入している。これは、学習到達状況を一覧表にした「ルーブリック表」に基づいて目標達成度を確認する方法だ。授業は、前回学んだことを思い出す「想起」で始まり、授業の終わりには自身の取り組みを振り返り、生徒間や教員と共有する。この過程を組み込むことによって、授業内容が頭の中できちんと整理され、必然的に授業への興味・関心が高まるという。

失敗を恐れず、楽しく学ぶ「富士見流アクティブ・ラーニング」

 中3の「卒業研究」は、これまで優秀な研究論文を書いた生徒だけが講堂で発表していたが、昨年度からスタイルを一新。各自の研究成果をまとめたポスターを体育館に集めて、ポスターセッション形式で全員が発表することになったのだ。一人ひとりが主役となるため、発表する内容の取捨選択をしたり、見出しのつけ方を考えたりして、生徒は「より良い伝え方」を工夫するようになったそうだ。さらに、事前に自分の考えをきちんとまとめたうえで臨み、当日は自分の発表に対して見学者から寄せられた質問にも対応する。

 富士見のアクティブ・ラーニングの狙いは、「失敗を含めて、生徒自身が楽しみながら取り組み、学ぶこと」。板倉校長は、「本校の授業では、『必ず正解しなくてはいけない』というプレッシャーを感じる必要はありません。失敗したときは、その原因についてあらゆる方向から考えればいいのです。その過程で、自由な発言や発想が生まれることを期待しています」と笑顔で語る。

 同校では今後も、教職員が教科を超えて連携を強化し、“生徒が主体的に学べる環境”を拡大し、論理的な思考力を育てていく方針だ。

“日常的な海外とのつながり”が自身の可能性に挑むきっかけに

 生徒の自立と挑戦を促す教育環境が整備されるなかで、同校では国際交流も活発化している。学内外で広がりを見せる「多文化交流プログラム」もその一例だ。

 海外研修と留学は、高1の希望者が対象。夏季休暇中の約3週間、アメリカやオーストラリアで実施する海外研修と、ニュージーランドの提携校で学ぶ短期留学(約3か月)・長期留学(1年間)がある。このほか、台湾の曙光女子高級中学とのホームステイ(中3~高2希望者)が行われ、台湾の生徒が富士見の生徒宅に滞在する間、校内で生徒主催の交流会が催される。

 一方で、校内にいながら海外とつながる機会も豊富だ。ニュージーランドの生徒との文通(中高生)、海外交流校からの短期留学生受け入れ、日本在住の外国人留学生との交流プログラムなど、学校に来れば日常的に多文化に触れることができる。

 このような外国人との交流が広がるにつれ、生徒は「英語を自由自在に使って表現したい」という意欲が湧き、「コモンスペース」の一角に設けられた洋書スペースで多読に取り組むなど、より一層英語学習に励むようになる。英検に加え、TEAPなど外部試験にチャレンジする生徒も年々増え、その成果は堅調な進学実績にも表れている。

 板倉校長は、「グローバル化が進む社会のなかで、生徒には“多様な人々と交流し、協力して未来を創ることができる素養”を身につけてほしいと願っています。在学中に誰もが多文化交流にかかわれるよう、今後もさまざまな仕掛けをつくり、国内外で自分の可能性に挑む生徒を支援します」と結んだ。

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