「ものづくり」重視型(工業社会型)から「こと創り」(知識創出型)へ。ITやAIの発達で、社会が求める人材像は大きく変化した。従来の価値にとらわれない「新しいリーダー」に求められる力について、海城中学高等学校・校長特別補佐の中田大成先生に聞いた。

模擬国連で日本から2度目。男子生徒では初の快挙

 2018年5月13日、海城中学高等学校はニューヨークから海を越えて届いた、ホットニュースに湧いた。世界23か国1500人が参加し、国際社会が抱える問題を討議する高校模擬国連国際大会で、高2の山田健人さんが見事、UNID(国連工業開発機関)議場で最優秀大使に輝いたからだ。

 「通常、模擬国連は1校2名のペアで参加します。しかし今回、事情により本校の生徒は単身でのチャレンジになってしまったのです。しかし逆境を跳ね返しての栄誉は、本校の社会科総合学習、体験学習を総合的に組み合わせた、改革の成果の一つの表れだと考えています」と話してくれたのは、校長特別補佐の中田大成先生だ。

 海城中学高等学校では、四半世紀も前から時代を先取りした学校改革に積極的に取り組んできた。90年代の第一期では「新しい学力」の養成として、課題設定・解決能力を身に着けるべく、社会科で探求型の総合学習を始めた。その集大成となるのが中3時、1・2学期かけて完成させる卒論で、入学当初は原稿用紙4~5枚がやっとだった生徒も、中3では30~50枚にも及ぶ大人顔負けの論文を仕上げるようになる。この取り組みは、自分で考え、自分の言葉で表現することに重点を置く本校の教育の礎として、現在も脈々と受け継がれている。

 2003年に始まる第2期改革では、「新しい人間力」の育成プログラムを導入。「プロジェクト・アドベンチャー」と「ドラマ・エデュケーション」という、2つの体験学習プログラムをとおして、人と交わり、相手の立場に立って意思疎通し、協働する力を涵養してきた。  

 「本校の生徒は中3までに全員が、〈新しい学力〉〈新しい人間力〉の育成というプログラムによって、基本的なリテラシーを身に着けていきます。ですから今回、最優秀大使となった生徒だけが、特別な存在ではないのです」と、中田先生は胸を張る。学校HPを開くと紹介されている、生徒たちの華々しい活動の軌跡が、中田先生の言葉を裏付ける。

SDGsゼミでは、生徒自ら電子黒板を活用し、ワークショップを開催している
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生徒たちに最も人気のあるプログラミング講座
生徒たちに最も人気のあるプログラミング講座

ワクワクする学びの体験が学び続ける姿勢を育てる

 工業社会型(「ものづくり」重視型)教育から知識創出型(「こと創り」重視型)教育へと、時代が大きくパラダイムシフトしていく現代。次に目指すのは、生涯にわたって持続的に学び続け、イノベーションを積極的に生み出していく人間の育成だと、本校ではさらなるチャレンジを始めている。2年間の準備期間を経て昨春スタートした、特別講座KSプロジェクトがそれだ。

 「変化の激しい時代に対応すべく、生涯学び続ける学習意欲を調達するには、子供たちの多様な「尖った」興味・関心を深掘りするような深い学びの場が必要だと考えました。本校にはアカデミックな経験を積んだ先生が大勢います。学年、教科、先生、生徒、時間、曜日、場所というすべての〈枠〉を取っ払い、同じ関心を持つ者同士一緒にワクワクするような学びをやっていこうというわけです」

 改革第3期の目玉となるKSプロジェクトは、将来どのような成果を生むのかは「まったく予測不可能。だからこそ、おもしろい」と、中田先生は笑みを浮かべる。内容は、プログラミング講座から英語で本校を紹介する『Kaijo Times』の制作、俳句甲子園やビブリオバトル(書評合戦)へのチャレンジ、フィールドワークなど多彩。講座の唯一のルールは、「活動を学内に収めないこと」だ。

 「偶然性に身をゆだねる、開かれた学びの姿勢こそが必要と、プラットフォームをデザインしました。新しい時代を切り開く「創造的な知」の育成には、偶然性に開かれ、未知なる”化学反応”を引き起こすような開かれた学びの姿勢の習得が欠かせないからです。

 学校は、与えてくれる場ではなく、子どもたちがワクワクしながら呼吸する場。何事にも物怖じせずにチャレンジし続ける空気が、学内には満ち溢れている。21世紀型スキルの育成が叫ばれて久しいが、新しい時代のリーダーシップをとる人間は、知の仕かけがさまざまに施された教育の中で、今日も育まれている。

「総合フィールド演習」での大阪巡検。上町台地を歩き、地形、歴史、そこに住む人々のくらしなどを関係づけ、多角的に考察した
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高2の山田健人さんが見事UNIDO(国連工業開発機関)議場で最優秀大使として選出された
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