ためらわず気楽に 通報は虐待防止の強力なツール

 通報は、私たちが虐待防止のために使える強力なツールです。小島さんは「虐待かどうかを決めるのは、私たち職員です。調査し確認するための手掛かりを提供するだけと気楽に考え、ためらわず気になることは通報してほしい」と強調します。

 また、今のところ虐待はないけれど、上手に子どもが育っていない、お母さんとうまくいかない、夜に無断で外出してしまうなど、「何かがおかしい」と周囲に感じさせる家庭も無数にあります。こうした子どもは両親の仲が悪く、半ば放置されているなど「マルトリートメント」(不適切な養育)を受けている恐れがあります。

 小島さんは「マルトリートメント」家庭の支援にこそ、地域住民の力が不可欠だと話します。「マルトリートメントの家庭は、孤立すると虐待に進んでしまいがちです。しかし祖父母がよく訪ねてくる、地域内での交流があるなど、家庭内にちょっとした強みがあれば、重篤さが薄らいできます

 最も身近な例を挙げると、子どもの友達が遊びに来て「うちのお母さん殴るんだ、死ねって言うんだ」と話した場合の対応です。「笑って流さず、『そんなのおかしいよ、うちではそんなの、やったことない。お母さんが殴るなんておかしい』と大げさに驚いてあげてください。暴力を受けているお子さんは、それが当たり前だと思っている。『えっ? うちは普通じゃないんだ』と理解することがすごく大事です」

 さらにそうした子どもに「お母さん大変だね。でも大人ならなんとかできるかもしれないよ」などと話し、大人に助けを求めることを「頭に刷り込む」のも、いざというときの手助けになるといいます。

児童福祉司「誰でもできる仕事ではない」

 虐待件数の増加に伴い、支援の現場は「戦場」と化しているとよく言われますが、小島さんのいる大田区の子ども家庭支援センターも例外ではないようです。

 同センターに区民などから情報が寄せられ、虐待として現場確認などの対応をした件数は2017年度、952件。長期にわたり抱えている継続案件もあるため、「ここ10年間、毎年担当者を増員していますが、それでも年度末には担当者1人当たり100件超の案件を抱える状態です」。小島さんも週末や夜に家庭を訪ね、子どもの安全確保が必要な場合は警察に連絡し…と、日付をまたいで勤務することもあるといいます。

 政府は結愛ちゃんの事件を受けて、2022年度までに児相などに勤務する児童福祉司の増員を目指すとしています。しかし不安を抱える親、そして心身共に傷ついた子どもたちの対応は、「誰にでもできる仕事ではありません」と、小島さんは断言します。「人数が増えるのはありがたいですが、ただでさえ全く畑違いの職員を、特に適性も考慮せず児相へ異動させているのが現状です。新卒の若者が親を指導するのも、年齢差などから実態としては難しい。増員するなら、人員配置と育成の仕組みを根本から作り直す必要があるのではないでしょうか」と話しました。

*この記事は、2018年7月に行われた「江東子育てネットワーク おせっかい講座『つながる地域の子育て支援 社会的養護ってな~に?』」の講演をまとめたものです。

(取材・写真・文/有馬知子 イメージ写真/鈴木愛子)

小島 美樹(おじま・みき)
小島 美樹(おじま・みき) 保育士、児童福祉司。1985年保育士として大田区に入庁し、公立保育園で働く。その後事務職を経て、2008年から子ども家庭支援センター。行政実務派遣で東京都児童相談所に勤務した経験もある。現在、同センター相談調整担当係長。