親への介入は簡単ではありません。というのも、彼らの多くが「子どもを良くしよう、良い子にしよう」と思って加害行為をしているからです。このため、本人は虐待しているとなかなか気づかず、人に指摘されても「大きなお世話」と耳を塞いでしまいがちです。
しかし小島さんは「もし隣の家の子を殴ったり家に閉じ込めたりしたら、下手をすれば逮捕です。同じことを、親だからという理由で、抵抗できないわが子に対して行うのは人権侵害であり、事件の一歩手前だと考えなければいけません」と強く訴えます。ただ支援する側は、虐待する親の不安を理解して「親を責めず、こうしないと生きていけない状況に陥ってしまったんだと認識し、寄り添うことが大事です」とも話しました。
叩かれていても「僕を連れていかないで」
通報を受けて訪ねてみると、お母さんが赤ちゃんを抱き「もう無理!」と泣き叫んでいた、というケースも。こうした場合は生活援助のヘルパーを派遣したり、センターの職員が家に通ったりして母子をサポートします。通報は、適切な支援につながるきっかけになります。
一方で、子どもが負傷して血だらけ、殴られて頭の骨を折っている、あざだらけ、やせ細っているなど、生命や安全が脅かされるケースは児相に通告し、一時保護せざるを得ません。しかし多くの子どもにとって、児相職員は「助け出してくれる」存在ではなく、「住んでいる家から無理やり連れ去り、友達も、学校も奪う」脅威でしかありません。
小島さんも児相職員だったときに、こうした子どもを保護したケースがありました。
「なんで僕なの。僕はやられたのになんで施設に行かされるの。お母さんとお父さんを連れていけばいいじゃない」
子どもは部屋の家具など、そこら中にしがみついて抵抗しました。しかし、彼はけがをしていて、どうしても保護が必要な状態。何とか説得し、連れ出したといいます。
「一時保護は安全確保のため、やむを得ず行います。でも子どもの立場に立ってみれば、日常生活を破壊する行為であり、納得できません。だから私たちは本来、そこに至る前に家庭を支援しなければいけない。児相の本当の目的は子どもを連れ去るのでははなく、家族仲良く暮らしてもらうため関係を修復することなのです」