子どもの友達や、同じ学童保育、塾に通う子、公園やショッピングセンターで見かける親子連れ…。子育てをしていると、様々な子どもと接する場面も多くなります。ある日偶然、「あれ、おかしいな?」と虐待を疑う場面に出合うかもしれません。そんなとき、具体的にどう動けばいいのでしょう。

 私たちでも察知できるかもしれない「虐待のサイン」と「BEAMSとは何か?」についての前回の記事はこちら

「園で異変を察知するのは難しい」「疑うと孤立させてしまう?」

 多数の被虐待児を診療している松戸市立総合医療センター小児科医長の小橋孝介医師は、外傷があるなど緊急性の高い場合は行政への情報提供を呼びかけます。一方で、「声かけ、あいさつ」から少しずつ、地域のコミュニティーをつくることの大事さも訴えています。

 では、具体的にどうすればいいのでしょうか。「江東子育てネットワーク」主催の会での小橋医師の講演には、子どもを持つ一般の人のほか医療関係者、保育士らが参加しました。参加者からは、「虐待かもしれないと思っても、実際に行動するのは難しい」と、困惑の声が上がりました。

 「日常的に着替えやオムツ替えをしていても、保育園で異変を察知するのは難しい。児童相談所や行政から知らされて、初めて気づくケースも何度かあった」。そう打ち明けたのは保育園の園長を務める女性です。また、ある支援関係者は「交流の場にも来ない家庭は、虐待があっても見つけようがない」と話しました。

 子育てをしながら小児科のクリニックで働く女性も「予防接種を受けないなど、不安を感じることはよくある。でも母親が『疑われている』と感じて来院しなくなったら、さらに孤立してしまう。まずは『いつでも来てね』というスタンスを取らざるを得ない」とジレンマを語りました。

子どもを怒鳴る親に声かける? 虐待情報の意外な真実

 公共の場で子どもを怒鳴る親、泣きわめく子どもの姿を目にしても、声をかけるかどうかは賛否両論でした。ある父親は「こちらが話しかけることで、帰宅後に『おまえのせいで恥をかかされた』と怒りが子どもに向いたら、逆効果になってしまうのでは」とためらいを口にしました。

 一方、小橋医師は、前回ご紹介した「チャイルドファースト」の視点から「何もせずに子どもが不幸になるより、その時点で自分が責められたとしても、行動して子どもを救うことが重要」と強調します。

 小橋医師が勤務する松戸市立総合医療センターの家族支援チームでは、たばこなど異物の誤えんと誤飲、家族しか見ていないところで起こった転落、やけどは全例、市町村に情報提供しています。「やり過ぎでは」との声もありましたが、始めてみると意外なことが分かりました。

「何もせずに子どもが不幸になるより、その時点で自分が責められたとしても、行動して子どもを救うことが重要」と話す小橋孝介医師
「何もせずに子どもが不幸になるより、その時点で自分が責められたとしても、行動して子どもを救うことが重要」と話す小橋孝介医師