児童虐待のニュースを見聞きすると、憤りを覚えると同時に、「でも、自分も一歩間違えば…」と心がざわつく人が少なくないかもしれません。「どうして育児がうまくいかないのだろう」――。子育てをしていると様々な壁にぶつかります。

 「子どもをたたいてもいいことは何もない」。頭では分かっている。でも、子育てをしているとどうしても手が出てしまいそうなことがある。「では、どうしたらいいの?」……。そんなママ&パパにとって回答になるかもしれないヒントはいくつかあります。すぐに効果が出るとは限りませんが、その一つを紹介します。

子どもをたたいてはいけない。ならどうすればいい?

 今回ご紹介するのは、自治体からも注目されている「ポジティブ・ディシプリン」です。

 「ポジティブ・ディシプリン」を直訳すると「前向きなしつけ」。これはカナダのマニトバ大学の児童臨床心理学者であるジョーン・E・デュラント博士がまとめた育児の考え方です。デュラント博士が子ども支援専門の国際NGOセーブ・ザ・チルドレンと協働開発したプログラムは、これまでカナダ、韓国、ニュージーランドなど世界約30カ国で活用されています。日本でも2009年にデュラント博士による著書の和訳が発行されています。

 公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでカントリートレーナーとしてポジティブ・ディシプリンを普及している森郁子さんによれば、「ポジティブ・ディシプリンとは、子育てへの取り組み方への提案」です。

ポジティブ・ディシプリンの考え方の骨子を、分かりやすく表した積み木
ポジティブ・ディシプリンの考え方の骨子を、分かりやすく表した積み木

 常に立ち返る基本として森さんが提示してくれたのが、この写真にある積み木。

 「目の前の子どもの言動にイライラさせられてしまって、つい手が出てしまいそうなとき、どうしたらいいのでしょう?」と尋ねると、「いつも道しるべとなってくれる、育児における『長期的な目標』を決めておくことが大切」とのこと。

 えっ!! 手を上げてしまいそうな瞬間に長期的な目標を考えるなんて、そんなの無理……と思うのは正直な反応でしょう。「子どもに対してつい手を上げたくなってしまうとき、この『長期的な目標』を思い出すと、ハッとすることがあるかもしれません」と森さん。ですから、「その場で決めるのではなく、前もって確認しておくことが大事です」

 「ポジティブ・ディシプリンではこのような場面を通して考えています」と森さんが話してくれたのが、以下の内容です。

あなたの家の、いつもと同じようなある朝のことです。お子さんは学校に行く支度をしていますが、出かける時間がどんどん迫ってきています。この朝、あなたがお子さんにやり遂げてもらいたいことは何ですか? つまり、あなたのこの朝の子育ての目標は何でしょう?

――『ポジティブ・ディシプリンのすすめ』 26ページより

 「どんなご家庭でもありそうな日常の風景です。ここで、お子さんに今すぐやり遂げてもらいたいことを考えてみてください」(森さん)