こらえるための2つの方法

 子どもの保護者として、大人は『短期的な目標』と『長期的な目標』の板挟みになる場面も少なくありません。「それでもポジティブ・ディシプリンは、『子育ての長期的な目標』を見失わないことから始まる」と森さんは言います。長期的な目標へ向かうために、日々大事にしたいのが、子どもに「大好き」と言うなどといった「温かさを与えること」と、ルールの背景にある根拠を説明するなど「枠組みを示すこと」の視点です。

 さらに大人が念頭に置けることとしてポジティブ・ディシプリンが提案するのが、「子どもの考え方・感じ方を理解する」ということ。子どもと一口で言っても、発達段階に応じて考え方や感じ方は全く異なります。

 「年齢的にまだ時間の感覚を持たない子どもに『あと5分で遅刻しちゃうから急いで!!』と言っても、5分という概念が分からないですし、具体的に何を期待されているのかを察することは難しいでしょう。子どもは月齢によって、できることや、これからできるようになることがありますよね。子どもの視点に立ってみることで、声の掛け方や対応に関して、工夫の仕方が色々見えてくるのではないでしょうか?」(森さん)

 そしてようやく、冒頭に紹介した積み木の一番上、「課題を解決する」にたどり着きます。

 「子どもとの毎日は様々なドラマがつきものです。そこにはいつも、子どもと解決すべき課題が隠れていますよね。そのとき発達に関する知識を応用すると、『子どもの視点から見れば、子どもの行動はたいてい理由がある』ことが、おのずと少しずつ見えてくるのではないでしょうか。日々の中にある『教える機会』を捉え、発達段階に配慮し、温かさと枠組みを大事にした対応をすることができれば、私たちはきっと『長期的な目標』にも、少しずつ近づいていくことができるのだと思います」(森さん)

【手が出そうなときにグッとこらえるための2つの方法】

1. 親指を中に入れてグーをする。全体を脳とした場合、親指が大脳辺縁系、他の指4本が大脳皮質を表す。ストレスがかかったときに、この親指から指4本が離れてしまうという様子をイメージする。

 実際に脳がそのように働くと、その瞬間、子どもに向かって「早くしなさい!」と怒鳴ってしまったり、たたいてしまったりします。そうならないために、ストレスがかかる状況に直面したら、ストレスがかかっている自分を客観視しよう。

 親指を中に入れてグーをし、残り4本の指(“考える脳”)が親指(“感じる脳”)から離れてしまわないように「グッ」とこらえる!

(ダニエル・シーゲル博士の「脳のハンドモデル」を基に日経DUAL編集部作成)
(ダニエル・シーゲル博士の「脳のハンドモデル」を基に日経DUAL編集部作成)

2. 「子どもが20歳になったときに、こんなふうに育っていてほしい」という「子育ての長期的目標」をカードに書き出し、お財布に入れて持ち歩く。時々取り出して読む。

「子育ての長期的目標」カードの一例
「子育ての長期的目標」カードの一例

(構成/日経DUAL編集部 撮影/稲垣純也、鈴木愛子)