「僕がこんなに傷ついたのを分かってほしい、という気持ちが強くなり過ぎ、他人に思いを押し付けてしまうようになりました」

 心は常に怒りでいっぱい。友人たちのささいな間違いや反論を許容するキャパシティーを失いました。その結果、「他人を馬鹿にしたり、優位に立とうとしたりして迷惑を掛け、自己嫌悪に陥る」悪循環を繰り返しました。

 「人に優しくなれない自分に、非があるのは分かっていました。虐待のせいだと思う一方、すべてを親の責任に転嫁していいのかと葛藤を繰り返し、疲れ果ててしまいました」

ひきこもりという「デッドエンド」、過食嘔吐繰り返す

 行き着いたのが、ひきこもりという「デッドエンド」です。人と会うのが怖くなり、夜コンビニで弁当を買って食べ、吐いてまた弁当を買うことを繰り返しました。精神科の医師から「親元に戻りなさい」と言われ、2カ月ほど実家に帰りましたが「もっとボロボロ」になり、仙台に戻りました。

 しかし2年以上が過ぎると、いよいよ貯金が乏しくなります。実家にだけは戻りたくないと、外に出る覚悟を決めました。夜の散歩で少しずつ身体を慣らし、コンビニでの深夜バイトを経て3年前、夜勤中心の介護の仕事に就きました。

 高齢者と触れ合い、料理や掃除などの日常生活を積み上げていく介護職は、性に合うといいいます。昼間は東日本大震災の被災地で、ボランティア活動もしています。ようやく今になって「苦労はあるけれど、自分の意思で人生を決め、地に足をつけて生きている気がする」と話します。

 しかし精神的に不安定な部分が残っているため、多くの人と関わる昼の仕事に就く自信はまだありません。今の仕事でも時折、「虚脱状態のようにぼーっとしてしまい、何もできなくなることがあります」

 虐待された経験のない人には、想像もできないようなストレスも抱えています