児童虐待の加害者が、子どもだけでなく配偶者にも虐待を加えているケースは少なくありません。2018年に起きた東京都目黒区の船戸結愛ちゃん虐待死事件、また2019年の千葉県野田市の栗原心愛さんの虐待死事件でも、加害者である夫から妻に対するDVが明らかになりました。そして両事件ともに、母親も逮捕され、有罪判決を受けました。

船戸結愛ちゃんの母、船戸優里被告の弁護人を務める大谷恭子弁護士は「児童相談所などの支援機関は、児童虐待と同時にDVも起きている可能性を想定して対応すべきだ」と強調します。大谷弁護士が2月に行った講演や優里被告が出版した手記などから、優里被告がどのように、夫である船戸雄大受刑囚(懲役13年の実刑判決が確定)の精神的支配下に置かれていったのかを見ていきます。

「どうして救えなかった」世間の批判、理解されない夫から妻への支配

 優里被告は保護責任者遺棄致死罪に問われ、2019年9月、東京地裁で懲役8年の判決を受け控訴しています。事件後、優里被告には「なぜわが子を守れなかったんだ、冷たい母親だ」「暴力夫から逃げ出せばよかったのに」といった批判が集中しました。「検察官から『娘より男を取ったんでしょ』とも言われたそうです」と、大谷弁護士は明かします。

 「しかし彼女は結愛ちゃんを守るため、夫の機嫌を取り迎合するしかなかった。今ならそれが間違いだと分かるけれど、そのときはそれしかできなかったのです

 大谷弁護士によると、雄大受刑囚は優里・結愛親子を「バカ嫁」「バカ娘」呼ばわりし、ささいなことをあげつらっては、毎日のように2~3時間の説教を繰り返しました。手記の中で、優里被告は何度も自分を「バカ」だと記し「彼の言うことをきちんと守って、結愛がどうやったらストレスなく毎日楽しく生活できるかを考えた」とつづっています。「正しい」雄大受刑囚に「バカ」な自分が従う、という支配構造がうかがえます。

 「なぜ結愛ちゃんを病院に連れて行かなかったのか」という批判も起きました。しかし精神科医の白川美也子氏は、娘の痩せ衰えた姿を見て衝撃を受けた優里被告が、心理的な防衛機能によって現実を正しく認識できなくなり、通院などの行動をとるのが「到底困難」だったとする意見書を作成しました。そして「夫からのDVと(夫から)娘への虐待に日々さらされたこと」で、「客観的には常軌を逸した心理状態」に至ったと結論づけています。

船戸優里被告の弁護人を務める大谷恭子弁護士。写真は千代田男女共同参画センターMIW、ちよだ女性団体等連絡会の共催企画「わたしたちに問われているものは?~児童虐待に潜むDV~」での講演の様子
船戸優里被告の弁護人を務める大谷恭子弁護士。写真は千代田男女共同参画センターMIW、ちよだ女性団体等連絡会の共催企画「わたしたちに問われているものは?~児童虐待に潜むDV~」での講演の様子

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  • 逃げ場を封じられ、頼る人を失う
  • 詳細は解明されないまま 暴力への抜本的対策も取られず
  • 一番の目撃者を敵に回してはいけない 証言得るには苦しみへの理解も必要

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