親と決別し回復へ いつの時代も虐待は心の傷になる

 治療を終えたサクラさんは上京し、母親と絶縁しました。それによって、生きづらさはだいぶ和らいだといいます。

 「やっと新天地で再就職し、生活を立て直し始めたところです。母親は許せませんがあまり感情を引きずらず、このまま頑張ろうと思えるようになりました」

 フラッシュバックもほとんどなくなり、分裂していた人格もまとまってきたと感じています。昨年1月、千葉県野田市で小学生の女の子が虐待死した事件のニュースを見た時も、解離を起こさず受け止めることができました。

 「胸をぎゅっとつかまれるようなつらい気持ちになりましたが、40代の自分が、地続きの子ども時代を振り返りながら見ていました」

 自分とは違う価値観を認められるようになり、同僚との世間話や食事会も苦痛ではなくなりました。虐待サバイバー3人で過去の経験を語るユニット「インタナリバティプロジェクト」(インリバ)の活動も始めました。

 サクラさんは最近、70代の女性からこんな話を打ち明けられたといいます。

 「子どもの頃、食事の時に正座でしびれた足を少しでも動かすと親にたたかれて、お茶わんに涙をこぼしながらご飯を食べたの。今も思い出すと胸が張り裂けそうになって、涙が出る」

 昔の子どもたちは、悪さをすればせっかんされて当たり前だと思っていた、今もしつけのために多少たたくのはやむを得ない……。こうした主張は間違っていると、サクラさんは女性の話を聞いて改めて実感しました。

 「人として尊重されなければ、いつの時代のどんな子どもも、心に傷を負うのです。インリバの活動を通じて、多くの人にそれを知ってもらいたいと思います」

イメージカット
イメージカット

取材・文/有馬知子 イメージ写真/PIXTA