親を動かすコミュニケーションとは?

 実際、世田谷仁慈保幼園では保護者とのコミュニケーションにおいてどんなことを心がけているのでしょうか?保育士の宮口先生にお話を伺いました。

 「今日は○○をしました、という“報告”では伝わらないと思うんです」と、保護者がお迎えに来たときの日々の会話を振り返る宮口先生。具体的には次のような話をしているそうです。

 「今日Aちゃんは、Bくんと鳥の家を作ろうと頑張っていました。お部屋で図鑑を見ながら、『もっと大きくしないと鳥さん入れないよ』などとBくんと話し合いながらストローと枝を組み合わせて骨組みを作って……ほら、ここまで出来上がったんですよ!(実際に子どもが作ったものを見せる)」

 お迎えに来た親にその日の様子を伝えるときは、一日にあったことの一部分だけでも、実際の子どもの発言も交え、見せられるものは見せながら詳細に話すように心がけているとのこと。そうすることで、親はその日の子どもの様子をより明確にイメージすることができ、子どもの目線に立って、日中子どもが過ごした時間を追体験するなかで、子どもの嬉しさや楽しさといった「気持ち」まで感じ取ることが可能になるのです。

お話を聞かせてくれた宮口先生(左)と佐伯園長(右)
お話を聞かせてくれた宮口先生(左)と佐伯園長(右)

親に伝えたいのは子どものワクワク感

 このような温度感のあるコミュニケーションを取るスキルは一朝一夕で身に着くものではありませんが、世田谷仁慈保幼園にはこのスタイルが根付いていることが分かります。園での様子を子どもと同じ視点で知ることができるからこそ、園での生活が親にとっても「じぶん事」になるのだろうと感じます。

 仕事と育児の両立で忙しい親にとっては、園から「来週までにプールバッグとサンダルを用意してください」と頼まれたら、正直「面倒くさいな」と感じてしまう気持ちになりませんか? そんな時に、プール遊びをする子どもの視点でのワクワク感や、お気に入りのサンダルを履いて嬉しい気持ちを感じることができたら、もうそれは「園からの頼まれごと」ではなくなります。

 世田谷仁慈保幼園のように子どもの主体性を育む保育を実践するにあたっては、園と家庭とで子どもの育ちを共有するためのポートフォリオやパパを巻き込んだイベントなど、保護者の理解や協力を得なくては、園内の閉ざされた環境だけでは実現できないことも出てきます。そんな時に、保護者とのコミュニケーションが障害となってそれを諦めるのか、それを軽やかに超えて保育を実践するかで、子どもが得られるものは大きく変わってきます。

 保育園選びの際には、保護者がどのように園のイベントや日常生活にコミットしているのかなど保護者とのコミュニケーションの豊かさを指標に、園の姿勢をチェックしてみると、今までとは違った見え方ができるかもしれません。

制作の材料が入っているワゴン。子どもたちが主体的に考えて行動できるよう、先生が材料を用意するのではなく、子どもたちが必要なものを必要なときに自由に使っている。
制作の材料が入っているワゴン。子どもたちが主体的に考えて行動できるよう、先生が材料を用意するのではなく、子どもたちが必要なものを必要なときに自由に使っている。

<世田谷仁慈保幼園 基本情報>

施設の種類:認可保育園
所在地:東京都世田谷区玉堤2-13-11
定員:105名
職員数:27名(非常勤含む、調理の外部委託除く)