親への参加要請がクレームにならないワケ

 シンプルな壁面でひと際目を引いたのが「ポートフォリオ」と呼ばれる記録書。世田谷仁慈保幼園では、子どもの成長をまとめた記録を毎月子ども一人ひとりに作成し、園の記録としてだけではなく、園内での子どもの様子を保護者に詳しく伝えるツールとして活用しています。ポートフォリオには、その時その子が夢中になっている遊びや、それを通してどんな工夫や発見をしたかなどが細かく記録されています。

 3か月に一度のペースで保護者にも任意でポートフォリオの作成をお願いしているそうですが、実に9割近くの保護者が家での子どもの様子や興味関心事についてのレポートを提出しているそう。

 昨今は保育園からのこういった要請に抵抗のある保護者も多く、場合によってはクレームにもなりかねません。にもかかわらず、世田谷仁慈保幼園ではポートフォリオの作成だけでなく、園の行事や日々の保育運営に保護者がアクティブに参画しています。

 例えば、「おやじの会」という任意参加型の父親グループもそのひとつ。普段は働いているパパたちなので日々の保育に直接関わることは少ないのですが、園の行事などでは手伝うというレベルを超えて、楽しみながら主体的に関わっている姿があります。前回の保護者参加型の行事「ピアッツァ」では、おやじの会のメンバー何人かでバンド演奏をしようという話になり演目を考える中で、相手が子どもだから童謡やアニメの曲というのではなく、演奏するパパたちも心震える曲で勝負しようということになったそう。子どもたちが初めて聴く曲中心のステージになりましたが、真剣かつ、楽しそうに演奏するパパたちの姿を見て、子どもたちは大盛り上がり。演目の一つ「風になりたい」(THE BOOM)のパーカッション部分では、打楽器に興味を持つ子どもたちが多かったこともあり目が釘付けに。保育参観後には、子どもたちの間で「風になりたい」が大ブームになりました。

 保護者と園のコミュニケーションは一方通行では機能しません。おやじの会でも、バンドに参加したいパパもいれば、行事の手伝いなど別の形で園に関わりたいと考えるパパもいます。各家庭それぞれに心地よく園と関われる距離感があることを踏まえ、それ合った形で関わり合いを持てる場づくりを心掛けているからこそ、保護者からの主体的な働きかけによるコミュニケーションが生まれるのでしょう。企業のサービスや事業展開でも注目されている「コミュニティ作り」の視点とも共通します。

子どもたちが興味を持っているものを並べたコーナー。公園で拾ってきた石、木の葉など、「こんなの集めてます」「こんなの見つけたよ」とディスプレイすることで、普段の園での様子が伝わる。親達もこれを見て「どうりで最近よく石を拾ってくるわけだ!」と普段の様子とリンクし、気づきにつながることも多い。
子どもたちが興味を持っているものを並べたコーナー。公園で拾ってきた石、木の葉など、「こんなの集めてます」「こんなの見つけたよ」とディスプレイすることで、普段の園での様子が伝わる。親達もこれを見て「どうりで最近よく石を拾ってくるわけだ!」と普段の様子とリンクし、気づきにつながることも多い。