「なぜそのおもちゃを置くのか」理由があるものだけをチョイス

 もちろん保育室内には、絵本などそのままでも遊びとして成立するものもあります。絵本はとても奥深く、生きるための知恵やメッセージを得たり、イメージを膨らませることで心を育んだりと、良い点がたくさんあります。そんな絵本のセレクトにおいても、「この絵本が遊びのきっかけや材料になりうるか」という視点を持つことで、子どもの遊び方が変わることだってあります。例えば乗り物がたくさん載った絵本から電車ごっこへと展開したり、さまざまな食べものが描かれた絵本からはおままごとやお店やさんごっこが楽しめそうです。

 そうしたおもちゃをセレクトしている理由や背景を、園長の曽木書代先生に聞きました。

園長 おもちゃ一つ増やすにしても、「このおもちゃは何のためにそこに置くのか」を毎回きちんと考えるようにしているんです。子どもたちが過ごす空間、接する保育者、触れるおもちゃ、すべてが子どもたちの育つ環境となるわけですからね。

山下 「そのおもちゃであるべき理由」にしっかり向き合うということですね。解にはどうしたらたどり着けるのでしょうか?

園長 答えは一つではないことの方が多いかもしれませんが、子どもの発達をよく見ること、そして例えば当園では、そのおもちゃに「応答性」があるかどうかを大事にしています。

山下 「応答性」ですか! 保育における「応答性」という言葉は、子どもの要求や働きかけに対して保育者がきちんと向き合うことなど、「人」に対して用いられることの方が多いように思いますが、おもちゃにも応答性という視点を取り入れて選択していらっしゃるのですね。

園長 そもそも乳児さんには、生まれながらにして「成長したい」という気持ちが備わっています。その気持ちにできる限り向き合って、伸ばしてあげることが、その先の学びの強力な土台になるのです。自ら学ぼうとしている人を相手にしているわけですから、その子が環境(=おもちゃ)に働きかけた時に、環境もそれに応答してあげられることが必要です。

山下 子どもたちがそれぞれの感性で自由に遊びを展開できるおもちゃには応答性があり、子どもの成長への意欲を支える、ということなんですね。

 子どもが本来持っている「成長したい」「できるようになりたい」という気持ちに、保育者やおもちゃを含めた環境全体で応えてあげることができれば、良い結果が生まれるに違いありません。たかがおもちゃ、されどおもちゃ。親である私たちのおもちゃ選びにおいても、こうした視点を取り入れると、さらに充実した子育てができそうです。