子どもにグローバルに活躍できるようになってほしいと願ったときに、選択肢の一つとして挙げられるのが「海外への教育移住」です。英語をはじめとする語学力はもちろんのこと、外国人とも渡り合っていけるメンタルやコミュニケーション能力、そこでしか学べないことがたくさんあるはず。しかし、実際に生活していけるのか、環境になじむことができるのかなど、悩むことや不安は山のようにあります。

そこで、数年前にパートナーや子どもたちと共にオランダへ移住し、現地に溶け込みながら働いている、二人のママ、パパに、どんな危機感を抱いてオランダへ移住したのか、海外移住にまつわる苦労や日本での生活との違い、日本人が海外で活躍するために必要な能力などについて語り合ってもらいました。今回は下編をお送りします。

【グローバル人材が育つ家 特集】
(1) 将来世界のどこでも活躍できる「3つの能力」とは
(2) 竹内薫 リビングの本棚から教育は始まっている
(3) 「国際人として使える英語」の学び方と必要な努力
(4) 夏野剛 多様性を受け入れ、尖った才能で突き抜けろ
(5) 海外移住成功の鍵は「アウェーを生き抜くメンタル」
(6) 海外でも日本でも親にできることは「環境作り」だけ ←今回はココ

対談参加者

吉田和充さん
Neuromagic Amsterdam CEO/クリエイティブ・ディレクター
日本で19年間務めた広告代理店を退職し、2016年4月にオランダへ移住、起業する。クリエイティブ・ディレクターとして、主に日本とオランダの企業、大学、スタートアップや政府関係などをつなぐ活動をしている。2019年現在、9歳と5歳の男児、ピラティス講師の妻との4人家族。40代。2014年に1年間の育休取得経験あり。

宗田英理子さん
LG Electronics/Environmental Specialist
日本の大学を卒業後、英国大学院へ留学。CSR・環境系の調査員・コンサルタントとして日本企業に勤務後、2016年8月にオランダへ移住。2019年現在、10歳と5歳の男児、建築士の夫との4人家族。アムステルダム在住。30代。

海外駐在だと、オランダの教育を受けるチャンスがない?

日経DUAL編集部(以下、――) オランダは「世界で一番子どもが幸せな国」と言われていますが、移住した日本人の子どもたちは、オランダでどんな教育を受けるのでしょうか?

吉田和充さん(以下、吉田) オランダには日本人駐在員やその家族が3000人くらい暮らしていると言われています。私は子どもの教育に関する相談を受けたり、駐在員の方と仕事をしたりする機会が多いのですが、大半の方は3年から5年くらいで帰国したり、また別の国に転勤になったりします。

 このくらいの短い期間で引っ越してしまうので、駐在員の子どもは基本的に地元の学校には通いません。数年で日本に戻る可能性が高いのに、オランダ語を覚えてもメリットは少ないですから。当然のことですが、英語を学べる環境を望む親がほとんどです。

 なので、インターナショナルスクールに通うことを希望するのですが、今、オランダのインターナショナルスクールは世界中から入学を希望する生徒が集まっており、長いウェイティングリストがあって、なかなか入学することができません。結果的に、日本人学校に通う子どもが非常に多いですね。

 運よくインターナショナルスクールに入れたとしても、そこは厳密にいうとオランダの教育システムとは異なります。つまりほとんどの子どもは、「世界一子どもが幸せな国」の教育を受けることなく、日本人学校で母国とあまり変わらない環境で勉強したり、インターナショナルスクールで英語を習ったりするくらいなのです。

<次のページからの内容>

● 駐在員の日本人と現地企業で働く日本人には大きな違いが
● 海外で通用するためには専門性と、強みの「見せ方」が大事
● 注目が集まる「短期留学」に意味はあるか?
● 子どものために親ができることは「環境作り」だけ
● 子どもの「引き出し」をたくさんつくる