「義務化」にはクリティカルマスを突破する底上げの狙いがある

 ユニセフの「先進国における家族にやさしい政策」によると、日本は父親に認められている育休の期間が、41カ国中第1位です。給与と同等の給付が受けられる期間は約30週で、6カ月以上の「有給」育休制度がある唯一の国として評価されています。世界でトップクラスの制度があるにもかかわらず、2019年の男性の育休取得率が7.48%にとどまっていることについて、塚越さんは、「同調性を重んじる国民性も背景のひとつ」と分析します。

 「『皆が取らないなら自分も取らない(取れない)』となってしまっているのでしょう。しかし、同調性を逆手に取れば、『皆が取るから自分も取る』に変わっていくはずです。政府は今年5月に策定した少子化社会対策大綱で「男性育休の取得率を2025年に30%」という目標を掲げました。この30%が男性育休における『クリティカルマス』(普及のための分岐点)となり、ここを突破すれば、育休を取る男性が多数派に変わっていくのではないかと期待しています」

 30%まで上げるのは簡単なことではありません。「そこで、時限的にでも男性育休を義務化して、取得率を底上げする必要がある」と塚越さんは「義務化」が果たす役割を解説します。

 「男性育休は『中小企業だから、特定の業界だから取りにくい』ということはありません。厚生労働省のサイトでは中小企業の事例やノウハウが得られますし、自社の事例を公開している企業もあります。男性育休にアンテナを立てている中小企業の経営者は義務化をしなくてもこういった情報を自ら取りに行き、実践しています。

 しかし、アンテナを立てていない人や企業には、こういった情報は目に入りません。だからこその『義務化』なのです。社員の育休取得率に応じて、インセンティブやペナルティを課すことによって、今までアンテナの立っていなかった経営者の意識を高めることができます。義務化は、取得率を底上げするために極めて有効的な手段となるでしょう」