育休義務化やパパ産休が実現に向けて動き出している

小室 この夏、大きな追い風になる動きが2つありました。

 1つ目は7月初旬に発表された西村経済再生担当大臣(菅新内閣で再任)が主宰する「選択する未来2.0」の中間報告書に、「性別役割分担意識の改革」の取り組みとして、「男性本人に対し、育児休業の取得の義務化や強力なインセンティブを与え、男性が全員取得する環境を目指すことも提案したい」という一文が入ったことです。

 男性育休の義務化については昨年、自民党有志による議員連盟が発足し、話題になりましたが、政府の文書に男性育休の「義務化」という言葉が明記されたのは大きな一歩と言えるでしょう。

 もう一つは、7月中旬に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針2020)」です。「配偶者の出産直後の男性の休業を促進する枠組みの検討など、男性の育児休業取得を一層強力に促進する」という一文が入りました。これによって出産直後のいわゆる「パパ産休」制度が設立に向かって大きく進むのではないかと思います。

 産後2~3日休む夫はいますが、産後すぐに10日~2週間ほど育休を取得する夫はわずかです。その理由としては、夫の育休は予定日(あるいは出産日)から取得できるのにそれが知られていないこと、手続きが複雑なこと、収入への不安、育休はもっと後に取ろうと思っていることなどがあります。

 出産直後に夫がしっかりと育児に関われるだけの休みを確保し、妻と育児をスタートさせることは、妻の産後うつ予防、さらには児童虐待予防のためにも必要なことです。寝不足でつらい中でも、パートナーと育児を分担し「眠いね、でも赤ちゃんはかわいいね」という気持ちを夫婦で共有することが大切だからです。夫が昼間は仕事に行き、夜だけ関わるというのでは、妻は夫の仕事を気にして完全に任せる気持ちにはなりにくい。それでは、気持ちの共有も難しいでしょう。

 パパ産休制度については、私たちもこれまで、簡単な手続きで、しかも育休よりも手厚い給付金が支給されるような仕組みを提言してきました。制度が設立されるかの決定は来年春の国会まで待たれますが、それより早く男性の育休取得・育児支援に向けて走り始める企業も出てくるでしょう。

 内閣府が5~6月に行った調査(「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」)では、ウィズコロナの暮らしで49.9%が「家族の重要性をより意識するようになった」と答えています。今年度は、春のコロナ自粛時期に家で仕事をしていた人が多かったため、育休の取得率自体は伸びないかもしれません。しかし、図らずも、コロナによって男性の家庭進出が推し進められた結果、機会があれば育休を取得したいという当事者の気持ちは強まっているのではないでしょうか。

 リモートワークが一気に進んだり、働き方改革で仕事の属人化をなくす意識が広がっていることでも、男性が育休を取得しやすい環境は整ってきています。より高まっている当事者のモチベーションに、政府や企業の動き。今、男性の育休取得にとって、いい追い風が吹いていると思います。

構成/福本千秋(日経DUAL編集部) イメージ写真/PIXTA