男性の育児休業取得がなぜ進まないのか。どのように浸透させていけばいいのかについてはさまざまな意見があるが、そもそもなぜ取得しづらいのだろうか。解決していくべき問題とは何か。社会保障論が専門の京都大学大学院人間・環境学研究科准教授の柴田悠さん、「男性学」で知られる大正大学心理社会学部准教授の田中俊之さんに聞いた。なお柴田さんは2017年5月に双子が生まれ、2018年1月まで育児休業を取得。田中さんは子どもが1月に誕生したため大学が休みの2月、3月を育児休業に近い形で育児に関わった経験がある。

義務化は企業の「バージョンアップ」のチャンス

 自民党有志が進める「男性育休義務化」が話題だ。狙いは男性の育児休業取得を企業に義務づけることで、女性に偏る家事・育児負担を見直し、少子化にも歯止めを掛けることにある。父親が積極的に家事・育児をしていると第二子以降が生まれやすい、という調査結果もある。

 確かに、これまでの啓発活動では男性の育休取得は劇的に増加することはなかった。実際、雇用均等基本調査(厚生労働省)の2018年度の速報値によれば、男性の育児休業取得率は6.16%と1割にも満たない少なさだ。また取得日数については、2015年度雇用均等基本調査によれば取得した男性の8割が1カ月未満だったという。

 つまりこのままでは早急な改善は望めない。

 京都大学の柴田悠さんは「一部の報道にあるように、自民党有志の提案が、社員ではなく企業に対して『社員に数週間の育休や部分育休や時短勤務の取得を促すこと』だけを義務化するものであれば、社員はこれまでよりも取得しやすくなりますし、取得しない自由も確保されるので、国民から賛同を得やすいし、実効性もあるでしょう」と話す。

 「日本生産性本部の調査によれば、男性新入社員(入社半年後)が育児休業の取得を望む割合は、2013年からうなぎ上りで、今や『8割』に達しています。育児や介護などを抱えて柔軟な働き方を望む社員は、これからますます増えていくでしょう。少子化により人手不足が慢性化していくなかで、たとえ中小企業であっても、一部社員が介護や育児で休んでも経営をうまく回していくノウハウを身につけていかないと、不人気となり、優秀な人材を確保できなくなります」

 このため今回の義務化は長期的に見れば、どの企業にとっても、必要なバージョンアップのための良いチャンスになるという。「もちろん、夫がしっかり育児参加すれば妻のストレスが減って子どもの発達も良くなるという実証研究はたくさんありますので、妻にも子どもにもメリットがあります」(柴田さん)

 職場の風土として育休を取らせることはできないという言い訳は通用しない時代に入っており、企業の変革は一刻を争うというわけだ。