2018年8月、東京・日本橋でスタートした異色の大学院大学・至善館。仏インシアード経営大学院や英ロンドン大学経営大学院など世界的なビジネススクールで教鞭(きょうべん)を取ってきた野田智義氏が今なぜ、新たな大学院大学を創設したのか。そこには歴史的な転換期に直面する世界と、未来に挑戦できるリーダー人材に対する危機感があった。

「リーダーとは目指すべきものではなく、結果として『なる』べきもの」、「学歴も肩書も不要。リーダーとは自らを信じて行動する人のことである」……創設者である野田智義氏が至善館創設の経緯とともに、独自のリーダーシップ論を語る。

 この連載の後半では、グローバルに通用するこれからのリーダーシップをどう育むかについて考えていきます。真のリーダーシップは言語の壁・価値観の壁などを超越して、普遍的に発揮できる能力です。ただ、現在の日本の環境では、この種のリーダーシップを身に付けるのが難しくなっています。そこで、リーダーシップの本質を理解し、培うための努力が必要です。今回はリーダーシップの基本的な概念を解説します。

何が違う? 「リーダーシップ」と「マネジメント能力」

 そもそもリーダーシップとは何でしょうか。日本には「リーダーシップ」と「マネジメント能力」を混同している人が多いと感じます。どちらも組織や社会において人を動かす力ですが、この2つは似て非なるものです。まず、どんな組織でもヒエラルキーが存在し、上の立場の人間には命令する力や評価する力が備わります。マネジメント能力とは、この力を使って人を動かすことを指します。

 一方、リーダーシップは名刺や肩書の力を使って人を動かすのではなく、「共感」の力に基づいて人が自発的に動いてくれる能力のことです。たとえ「社長」とか「部長」といった肩書がなくても、「この人の言うことであれば信頼できるし共感できるから、ついていこう」となるのが純粋な意味でのリーダーシップであり、マネジメント能力とはまったく違うのですね。ここを誤解し、マネジメントをしているだけなのに、自分はリーダーシップがあると思っている日本人は多いはずです。

 もちろんマネジメントも大切な能力です。組織において上司の立場にある人は、実際の現場ではリーダーシップとマネジメント能力の両方を発揮することが求められます。その場合も、自分が肩書の力を使って人をマネジメントしているのか、純粋なリーダーシップを発揮しているのかを冷静に認識する必要があります。組織において、肩書が下の人間が上の人間に従うのはある意味で当然です。しかし、上下関係があっても部下が上司を人として信頼し、考えに共感して自発的に動いてくれるのが望ましいはずです。どんな状況においても、最も強いのは共感と信頼に基づく人間関係です。組織のトップにいる経営者であっても、それを正しく認識しておく必要があると思います。

 「リーダーシップを支える要素」には3つあります。

大学院大学至善館理事長の野田智義氏
大学院大学至善館理事長の野田智義氏