2018年8月、東京・日本橋でスタートした異色の大学院大学・至善館。仏インシアード経営大学院や英ロンドン大学経営大学院など世界的なビジネススクールで教べんを執ってきた野田智義氏が今なぜ、新たな経営大学院を創設したのか。そこには歴史的な転換期に直面する世界と、未来に挑戦できるリーダー人材に対する危機感があった。

「リーダーとは目指すべきものではなく、結果として『なる』べきもの」、「学歴も肩書も不要。リーダーとは自らを信じて行動する人のことである」……創設者である野田智義氏が至善館創設の経緯とともに、独自のリーダーシップ論を語る。

歴史的な曲がり角に直面する現在の世界

 私が理事長を務める至善館は、2018年8月に開学した専門職大学院大学です。第1期生は21カ国・地域から集まった84人で、全体の4割が外国人。卒業すると経営学修士(MBA)の学位が得られますが、一般的なビジネススクールとは、目的もカリキュラムも大きく異なっています。私たちが目指しているのは、これからの未来を創るリーダーになり得るような人材を結果として輩出する、新しいタイプの教育機関です。今回はまず、なぜこのような教育機関を創設するに至ったのか、私たちの問題意識についてお話ししたいと思います。

 人類の歴史は今、極めて大きな曲がり角にあるという認識が私たちの出発点です。産業革命以降の工業発展から始まり、ここ20~30年の間に起こったパソコンやインターネット、スマートフォンの普及、さらにはAI(人工知能)やIoTなど最新テクノロジーの進化により、社会の利便性は増し、私たちの生活は豊かになったと言われます。

 しかし、私たちの生活は、本当に豊かになったのでしょうか。むしろ、窒息しそうなほどの速度で社会が変化する中で、人間がその速度についていけなくなっている。時代の曲がり角に直面していることを肌感覚で感じている人は、日経DUALの読者の皆さんの中にも少なくないのではないでしょうか。

 また、かつて「途上国」「南側諸国」と言われたアジアやアフリカの多数の国々が経済成長を遂げ、いまや世界経済の中心地が数百年ぶりにヨーロッパからアジアに戻りつつあります。世界人口は近い将来100億人に達し、中間所得層もどんどん拡大していくでしょう。

 世界の人口構造変化だけではありません。やがて人間の知性を超える「シンギュラリティー(技術的特異点)」が訪れるともいわれるAIテクノロジーの急激な進化。あるいは元米国副大統領のアル・ゴア氏がかつて著書『不都合な真実』でも指摘したCO2排出量の劇的拡大。いずれもその動きは指数関数的であり、これらの環境変化のスピードは、人類が今まで経験したことがないほど急激なものです

 そんな中で、これまで先進国が主導してきた大量生産・大量消費型の成長モデルが、これからの時代も続けられるはずはありません。

大学院大学至善館理事長の野田智義氏
大学院大学至善館理事長の野田智義氏