「人間性を失わない持続可能性」が重要

 近年、持続可能性(サスティナビリティー)が企業社会においても重要なキーワードとして認識されるようになりました。もちろん重要な概念ですが、現在の議論には欠けている視点があると思います。それは「人間性」という視点です。

 極論を言えば、人間という生物種が永遠に持続可能であるはずがありません。「地球にやさしい社会を目指そう」というのも、人間の非常に傲慢な発想です。「地球環境や他の生物種にとっては、人間がいないほうが好ましい」と考える地球環境の専門家もいます。

 もしかしたら、生物種としての人間の持続可能性は今後数百年程度かもしれません。それを前提とした上で、大切なのは「人間であることを失わない持続可能性」だと私は考えています。人間が人間らしく生きられる社会を実現すること。そんな社会をできる限り持続していくこと。それが、私たちが目指すべき未来像の一つであり、私が至善館を創設した理由でもあります。

 「人間性を失わない持続可能性」を実現するということは、「システムと戦う」ことでもあります。既に私たちは無意識のうちに、さまざまな意味で経済・社会システムの一員に取り込まれています。毎日のように鉄道を利用し、コンビニエンスストアを訪れていますが、そこで出会う駅員さん、店員さんたちの顔や名前をちゃんと覚えていますか? 皆、私たちの生活を支えてくれている、大切な人々であるはずなのに。

 一人ひとりの個性に目を向けず、まるでロボットのように、置き換え可能な機械のように扱われてしまっているのが現状です。便利さや効率性が重視されるあまり、人間が人間らしく扱われない世の中になってしまったのです。人間がシステムの一員になっているからこそ、誰もが心に不安や不満を抱えていて、それがさまざまな問題を引き起こしています。

 本当に私たち人間は、このような世界のあり方を選択したのでしょうか。私たちはどんな未来を創りたいのか。そのことを深く考え、あるべき未来の実現のために自ら行動できるリーダーが、今改めて求められていると思うのです。