子どもの脳や身体、味覚は、日々の食事によってつくられます。一児の母であり、「味覚の育て方」の講座が大盛況のフードアナリスト・とけいじ千絵さんが、味覚を育て、勉強やスポーツなどを頑張れる子になるための食べ方、食べるものをわかりやすく解説します。『子どもの頭がよくなる食事』(日経BP社)から、一部をお届けします!

 数年前、「子どものおよそ3割が味覚を正しく認識できない」というショッキングな研究結果を目にしました。塩味と苦味の区別ができなかったり、酸味が分からなかったりする子どもが3割と聞けば、わが子は大丈夫かしらと不安になるかもしれません。

 味を正しく認識できない背景には、生活環境・食環境の乱れがありそうです。例えば、濃い味、添加物たっぷりの食材、ファストフードやジャンクフード、外食の増加、和食離れなどさまざまな理由が考えられています。味覚オンチにならないためには、どんなことに気を付けたらいいのでしょう。

味覚の発達に大切な3つのこと

(1)薄味を基本とする

 「薄味が体にいい」と、聞いたことがあるでしょう。「薄味=減塩」は健康にも寄与します。では、どうして味覚のためにも薄味が大切なのでしょうか。

 味覚というのは聴覚や触覚などと同じ「感覚」です。ですから、味覚を育てるためには、感覚に敏感になるということが大事です。食べ物を口に入れたとき、どんな味がするかを「感じる」「考える」ことで、どんどん味覚は研ぎ澄まされていきます。

 ところが、濃い味ではどうでしょう。濃い味の食べ物は、どんな味がするか感じ、考える間もなく、口に入れた瞬間に「甘い」「しょっぱい」などと分かってしまいます。薄味のものは、口に入れた瞬間には、すぐに味を感じません。噛むごとに味を感じ、その過程で「ほんのりと甘い」「最後に苦味を感じる」などと気付きます。

 ですから、薄味こそが味覚を開花する基本となるのです。私たちがおいしいと思う塩分濃度は0.8~0.9%といわれています。自宅で作るおみそ汁はこのくらいです。一方、乳児の飲む汁物の塩分濃度は0.5%以下、幼児は0.6~0.7%が適当です。ですから汁物の場合、離乳期は大人のものの半分の薄さに、幼児期でも少しお水で薄めてあげるといいでしょう。

 外食でいただく汁物の塩分濃度は概して高く、おみそ汁で1.1~1.3%になるものもあります。外食では、子どもの汁物は水やお湯で少し薄めるという意識を持つといいですね。まずは汁物だけでも意識して薄くすることから始めてください。

 そして毎回の食事では難しくても、昨日の夕食は外食で濃い味だったので今日は薄味にしよう、などとだいたいでいいので、薄めの味を心がけてみましょう。

(2)いろいろな食材・味を経験させる

 さまざまな食材、さらにはさまざまな味を経験させてあげてください。苦手なものを無理に与える必要はありませんが、なんでも子ども用にと甘く味付けたり、ケチャップやマヨネーズでごまかしたりしないように。幼児期から小学校中学年くらいまでは、食わず嫌いが多く、「見慣れないもの=嫌いなもの」です。繰り返したくさんの味を経験させて、なるべく食わず嫌いを減らしていきましょう。

 その際には、味覚をきちんと感じられる環境を整えましょう。具体的には、できるだけゆったりと食事をすること。「今は口に何が入っているの?」「それはどんな味がする?」などと、味に意識が向くような問いかけが効果的です。なかなか平日はゆっくりと食事をする時間がないでしょうから、休日の朝ごはんなどがおすすめです。また、過度な香料・着色料はにおいや見た目で脳が錯覚をおこし、味が感じられにくくなってしまいます。炭酸飲料(炭酸水を含む)や渋いお茶、辛いものは、口腔内が一時的に収れんし、味が感じられにくくなりますから、食事中は控えます。また、テレビや音楽なども味に集中させることの妨害になりますので控えめに。

(3)味やにおいを言語化する

 実は、味覚を育てるためにとても重要なのは「言語化」です。嗅覚や味覚は、繰り返し嗅いだり味わったりすることで研ぎ澄まされていきます。そこで、味やにおいを表現する(言語化する)ことがおすすめです。ポイントは、感じたことを表現することが大切であり、決して正解を探してはならないということです。子どもの表現を否定したり評価したりしないでください。

 例えば、子どもがミカンを食べて「しょっぱい」と表現したとき、思わず「しょっぱいじゃなくて、酸っぱいでしょ」と指摘してしまいがちです。この表現は、酸っぱいをしょっぱいと単に言い間違えたのかもしれませんが、その子は、本当にミカンがしょっぱいと感じたのかもしれません。

 人は、舌の上にある味覚の受容体で五味を感じます。甘味は甘味の受容体、酸味は酸味の受容体と、五味がそれぞれの受容体を持っていますが、この受容体の数には個人差がありますから、酢っぱいものを敏感に感じるとか、甘味を強く感じやすいとか、人それぞれ味覚のクセがあるわけです。例えば、本来「甘い」と感じるはずの合成甘味料のアセスルファムKも、2割の人は「苦い」と感じるといいます。

 ちなみに私は、ミカンを食べると、しょうゆのような味を感じます。ミカンがしょっぱいと発言する子どもの気持ちが分かります。味覚には、正解も不正解もありません。感じたことをそのまま表現させればよく、それに対する評価は必要ありません。とはいえ、幼児期はまだ語彙が少ないですから、大人が表し方を伝えるのもいいでしょう。えびが「ぷりぷり」、れんこんが「サクサク」など、日本語の美しさを教えてあげてください。小学校中学年になると、語彙力が豊富になり、自分の感じたことを表現できるようになります。例えば、これまでアーモンドを食べて「アーモンドの味がする」としか答えられなかった子どもが「甘い」「ちょっと苦い」「ざらざらした感じが舌に残る」「ふわっと優しいにおいがする」などという表現ができるようになってきます。

食べた味を書いたら好き嫌いが減少

 実は、味覚が開花し豊かになると、好き嫌いもなくなっていきます。小学校3年生を対象に、給食で食べた味を表現し、文章に書くという「味覚教育」を給食指導に導入した学校では、

● 一度も完食できなかった子どもが半年後には完食するという行動変容
● 学年の給食残菜率の低下
● 帰宅してからの間食が減少したことによる肥満傾向の改善

という結果が報告されています。(石井克枝千葉大学名誉教授による給食指導による)

 給食を食べて、味わい、感じたことを書き留めるということをしただけで、好き嫌いが減少し、完食できる子が増えるなんて驚くべきことだと思いませんか。子どもの味覚が豊かになり、食事の楽しみや喜びを共有できるようになると、家族での食事時間がよりよい時間になるでしょう。

(写真/品田裕美)

食べ方と食べ物で脳と味覚を育てる!
『子どもの頭がよくなる食事』

子どもの脳や身体、味覚は、日々の食事によってつくられます。一児の母であり、「味覚の育て方」の講座が大盛況のフードアナリスト・とけいじ千絵さんが、「集中して勉強する」「運動を楽しむ」「元気に過ごす」ための食べ方、食べるものをわかりやすく解説します。すぐに作れるレシピも40種類紹介!

■第1章 頭がよくなる食べ方
■第2章 脳と味覚はどう育つ
■第3章 お悩み別!親子で取り組む食育

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