子どもの脳や身体、味覚は、日々の食事によってつくられます。一児の母であり、「味覚の育て方」の講座が大盛況のフードアナリスト・とけいじ千絵さんが、味覚を育て、勉強やスポーツなどを頑張れる子になるための食べ方、食べるものをわかりやすく解説します。『子どもの頭がよくなる食事』(日経BP社)から、一部をお届けします!

アレルギーや虫歯、心理的要因…好き嫌いの様々な原因

 私に届くお母さんの悩みのうち、最も多いのは「好き嫌い」に関することです。大半のお母さんが、子どもが何かしら食べないものがあると困っているのではないでしょうか。幼児期・学童期の好き嫌い、これは単に嫌いなものを食べないだけではなく、好きなものしか食べなかったり、昨日は食べたのに今日は食べないという「ムラ食い」や、決まった時間には食べず好きな時間に食べるという状態も含みます。

 好き嫌いにはいろいろな原因があります。過去にある食べ物を食べて嘔吐したという不快な経験のトラウマ(嫌悪学習といいます)から、その食べ物の味やにおいを記憶にとどめ、嫌いになってしまうこともありますし、離乳期に幅広い味に慣れ親しまなかったからという場合もあります。親にかまってほしかったり、反抗期だったりという心理的要因が根っこにあるかもしれませんし、アレルギーや虫歯という意外な原因が隠れていることもあります。

 そもそも、脳はどうやって好き嫌いを決めているのでしょう。それが分かれば、解決策も見つかるかもしれません。

脳が好き嫌いを決定するメカニズム

 例えばピーマンを例にとってみましょう。一度もピーマンを食べたことのない子どもの、ピーマンに対する感情は「無」です。それが、サラダに入っている生のピーマンを一口食べたときに「苦い、くさい」と感じると、ピーマン=「不快」という脳の神経回路が働きます。他方で、ピーマンの肉詰めを食べておいしいと思ったときは、ピーマン=「快」という神経回路が働きます。このように、脳はさまざまな経験をもとに、ピーマンに対する神経回路をつくっていきます。

 そして、ある特定の刺激が繰り返された場合、例えば、いろいろな料理のピーマンを食べても毎回くさいと感じた場合、これまであったピーマン=快という神経回路は消えてしまい、ピーマン=不快という神経回路のみが残り、結果、ピーマンが嫌いになります。このようにして、脳は好き嫌いを決定させていきます。

 ここで重要なのが、この神経回路は、繰り返しの経験によって太くなったり、新しい刺激によって塗り替えられたりするということです。ピーマンが嫌いな子に、ピーマンが主役の料理を無理やり食べさせたとしても、ピーマン=嫌いという脳の神経経路がより太く強くなる一方で意味がないのです。

 ピーマン=嫌い(不快)という神経経路を、ピーマン=好き(快)、もしくはピーマン=普通という神経経路にするためには、ピーマンのこれまでのイメージを払拭して、新しい神経回路をつくってあげる必要があるわけです。

好き嫌いへのアプローチ

この新しい神経回路をつくる際に覚えておきたいことは、人間がおいしいと感じる要素、すなわち快の神経回路をつくる方法は、たくさんあるということです。

 人が何かをおいしいと感じるには、食べているものの味、温度、におい、食感など、たくさんの要素が関係しています。例えば舌が感じる「味」は、意外なことに、おいしさの決定要素の約1割しか左右せず、「おいしい」と感じるためには、いま挙げた「味」以外の要素が9割を占めているのです。鼻から伝わる「におい」や「食感」「見た目」などの情報を総合して判断していますし、もっというと料理以外の要素、例えば、食べる人の健康状態や疲労感などの「生理的状態」、喜怒哀楽や緊張状態などの「心理的状態」、さらに食べる場所、時間、天候などの「環境」なども大きくかかわってきます。

 これらのさまざまな情報が感覚器官から脳に入って、それが総合的に「おいしい」を構成していきます。

 例えば、いつもと同じおにぎりでもピクニックに行き大自然の中で食べると、いつもよりおいしく感じるという経験や、緊張していて料理の味が分からなかったという経験は、皆さんもしたことがありますよね。

 特に子どもは、楽しかったときに食べたものを好きになり、嫌な思い出と一緒に食べたものを嫌いになる傾向があります。すなわち、子どもにとって、「楽しい」ということと、「おいしい」ということは密接に関係しているのです。ですから、好き嫌いを減らすための料理レシピそのものも大切ですが、料理を食べたくなるような食卓の演出、「楽しい! おいしい!」と感じられるための環境づくりに心を配ることも大切なのです。

 一番よくないのが、「この子は嫌いだから、食べないから」と放っておくこと、食卓から無くしてしまうことです。なぜなら、「おいしい」と感じる感覚の大半は、学習によるものだからです。

 これまでは食べ慣れた甘いものばかりをおいしいと感じていた子どもが、たまたま食卓にあったほうれん草のお浸しを食べてみたら「あれ、意外とおいしい!」と感じた――。これが「おいしさ」の学習であり、そうやって味覚の幅を広げていくものです。

 ですから、どうせ食べないからといって、その子が好きなものばかりを出し、苦手なものを食卓から消してしまうのはやめてください。

(写真/品田裕美)

食べ方と食べ物で脳と味覚を育てる!
『子どもの頭がよくなる食事』

子どもの脳や身体、味覚は、日々の食事によってつくられます。一児の母であり、「味覚の育て方」の講座が大盛況のフードアナリスト・とけいじ千絵さんが、「集中して勉強する」「運動を楽しむ」「元気に過ごす」ための食べ方、食べるものをわかりやすく解説します。すぐに作れるレシピも40種類紹介!

■第1章 頭がよくなる食べ方
■第2章 脳と味覚はどう育つ
■第3章 お悩み別!親子で取り組む食育

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