小学校で地域の在来種を飼育 保護しながら「生きた教材」にも

 小学校を在来種の保護の場所として活用しようという動きもあります。

 在来種のニホンイシガメは、カメ類全体の個体数の数パーセントしかいないという地域もあり、危機的な状況です。これでは、野外で外来種を取り除いている間に消えてしまう可能性があります。そこで、外来種の脅威がない囲いの中で、もともとその地域にいるものを一時的に保護しようと、場所を探しています。

 以前お伝えした通り、同じ生き物でも地域によって遺伝子が異なります。そのため、仮に大学の研究室などで在来種を保護しようと思っても、地域ごとに分けて管理するとものすごい数になってしまって現実的ではありません。できれば、各地域でやるのが一番いい。小学校なら、もともとカメを飼っているところが多いですから、地域の在来種を飼育することが保全につながり、なおかつ子どもたちの教育にも役立てることもできて、理想的なのではないかと感じます。

 静岡県内にあるF小学校の周辺では、ニホンイシガメはいなくなったと思われていたのですが、過去に地域の方が見つけて、F小学校に持ち込んでいたものが中庭の池に何匹かいました。そこで、その池を地域の方や私が教えている大学生たちで整備して、ニホンイシガメが繁殖できる環境を整えました。

 子どもたちは、ニホンイシガメが卵を産むために穴を掘っていたり、ふ化した子ガメが歩いていたりする様子を見ることができます。希少なカメは盗まれやすいのですが、小学校ならむやみに人が立ち入れないので、その点でも安心です。

 こうした取り組みを日本各地の学校で行うことができれば、地域ごとの遺伝子の保護が可能になるかもしれません。ただし、行政の他、大学や博物館など、遺伝子レベルで生き物を扱える施設との連携が必要です(参照:環境省「絶滅のおそれのある野生動植物種の生息域外保全に関する基本方針」)。

地域のニホンイシガメを保護するために整備された、静岡県のF小学校の中庭。池の奥は段差がなく、往来可能に(写真提供:加藤英明)
地域のニホンイシガメを保護するために整備された、静岡県のF小学校の中庭。池の奥は段差がなく、往来可能に(写真提供:加藤英明)

昔は当たり前にいた野良犬や野良猫の減少が意味すること

 近年、生き物との関わり方は本当に変わってきています。皆さん関心を持ち、生き物を大切にしようと思っている。これは教育現場の変化より、子どもたちの意識が高まるのが早かったですね。やっぱりメディアの影響は大きい。「こんな変な生き物が捕れた!」みたいに面白半分で終わらせるのではなく、ちゃんと問題提起をしてくれるようになったと思います。

 動物愛護という観点から見ると、ここ30年くらいで大きく変わったのは、やはり犬や猫ではないでしょうか。昔は身の回りに野良犬、野良猫がごく普通にいましたが、今は本当に少なくなりました。管理されていない犬や猫がいなくなるなんて、私が子どものころには想像もしていませんでした。

 ここから言えるのは、生き物を管理しようと思えば、ちゃんとできるということ。外来種対策なんてもう無理、手遅れでしょ、という方は多いのですが、犬や猫がしっかり管理できたのですから、他の生き物でできないということはない。同じくらい長いスパンが必要かもしれませんが、外来種問題を解決できると思っています。

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美)

加藤英明(かとう・ひであき)
加藤英明 静岡大学教育学部講師。1979年静岡県生まれ。静岡大学大学院教育学研究科修士課程修了後、岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カメやトカゲの保全生態学的研究を行いながら、学校や地域社会において環境教育活動を行う。また、未知の生物を求めて世界中のジャングルや砂漠、荒野へ足を運び、その姿は「クレイジージャーニー」(TBS)で「爬虫類ハンター」として紹介されている。外来生物が生態系に及ぼす影響についての研究にも取り組み、「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京)に専門家として参加するなど幅広く活動中。第44回放送文化基金賞・出演者賞受賞。新著『爬虫類ハンター 加藤英明が世界を巡る』(エムピージェー)が発売中。