殺処分になる外来生物を目の当たりにすることの重み

 わなには、カメ以外にも外来種のライギョやウシガエル、在来種のギンブナやモクズガニなどいろんな生き物がかかります。アカミミガメをはじめとする外来生物は、すべて殺処分になることは子どもたちも分かっています。ペットとして最後まで飼えば生き物も幸せだけど、放されることで悪者扱いされて、処分されることになる。こういうことって、ただ話だけ聞くのと、実際に殺処分される生き物を目の当たりにするのとでは、感じるものが全然違いますよね。それは、子どもたちを教える立場にある教員の方々にとっても大きな差になります。

 ちなみに、捕獲したクサガメやイシガメには、調査中であることを示す標識を付けて放します。クサガメは数が多いため指標となる存在で、次の調査で捕れたクサガメの9割以上にマーキングがされていれば、この地域はほぼチェックしたのかなと分かります。実際にはまだ半分も行かないですけどね。

 標識は、カメの甲羅のフチにドリルで穴を開けます。開ける場所によって個体番号が決まり、識別できるしくみです。この方法では、調査中のカメだと目に見えて分かるので、捕まえて持ち帰られることはありません。標識を付ける作業は、普段私と一緒に調査活動をしている中高生たちがやります。彼らはわなの組み立て方、餌選びや設置場所、捕獲したカメの計測方法など、調査活動に必要なスキルを一通り身に付けています。

外来種のライギョ。こちらも殺処分になる
外来種のライギョ。こちらも殺処分になる

参加者は年々増加 地域のモラル向上は外来種対策に不可欠

 外来種の脅威や環境保護に対する関心は、ここ10年で格段に高まったと思います。調査活動も、暑い中でわなを仕掛けて回収してというのはかなりの労力ですが、ありがたいことに協力してくれる市民の方がどんどん増えています。

 遊水地は散策を楽しめる場所なので、逆に言うと生き物を放しやすいんですね。でも、調査活動が広く知られるようになれば、捨てにくくなる。今まで無関心だった人も、実際にわなを仕掛けてカメを捕獲することで、「なんでこの生き物はここにいて、殺されなければいけないんだ?」などと考えるようになります。そうやって地域全体でモラルが向上していくことが、外来種対策には不可欠です。関心が高まったおかげで、今年に入ってから遊水地に入ろうとしていたカミツキガメを2匹、市民の通報によって捕まえることができました。

 千葉県では、カミツキガメの繁殖が深刻な印旛沼で、地域の農家の方々がわなの設置に協力する動きが始まったそうです。農作業を通して現場をよく知る人たちの知恵はとても役に立つものです。また、静岡市の調査に他県の自治体の方が参加されることもあって、自分たちの市や町でもやってみようという話も上がっています。

 大人から子どもまで地域の人たちにボランティアで参加してもらい、外来生物を捕獲することで、参加者は自然環境について学ぶ機会が得られ、自治体はコストが抑えられるので対策も持続する。外来種問題を地域全体で解決する動きが全国に広まり、多くの人たちに関わってもらえるといいなと思います。

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美 写真提供/加藤英明)

加藤英明(かとう・ひであき)
加藤英明 静岡大学教育学部講師。1979年静岡県生まれ。静岡大学大学院教育学研究科修士課程修了後、岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カメやトカゲの保全生態学的研究を行いながら、学校や地域社会において環境教育活動を行う。また、未知の生物を求めて世界中のジャングルや砂漠、荒野へ足を運び、その姿は「クレイジージャーニー」(TBS)で「爬虫類ハンター」として紹介されている。外来生物が生態系に及ぼす影響についての研究にも取り組み、「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京)に専門家として参加するなど幅広く活動中。第44回放送文化基金賞・出演者賞受賞。新著『爬虫類ハンター 加藤英明が世界を巡る』(エムピージェー)が発売中。