アカミミガメに場所を譲る「お人よし」のイシガメ

 生き物も人間と同じで、長い歳月の中で環境に応じた性格がつくられます。日本の生き物は狭い土地の中で生き残れるよう、譲り合い、すみ分けることを好む傾向があります。凶暴な生き物がいないせいか、性格も全体的におだやか。例えば在来種のイシガメは、どんなにいじめられても絶対にかみません。でもアカミミガメはすぐかみつきます。アメリカではカメが子どもにいじめられる「浦島太郎」みたいな昔話は生まれないでしょう。

 もし近くの池や川にイシガメがいたら、そこは昔ながらの環境が保たれているいい水辺ですね。イシガメは体に付いたヒルなどの寄生虫を落とすために、岩場で日光浴をします。でもそこにアカミミガメが来ると、場所を譲るんですよ。そうするとイシガメはヒルを落とせなくて、どんどん血を吸われて死んでしまう。お人よしなんです。

おだやかな性格の在来種、イシガメ(写真提供:加藤英明)
おだやかな性格の在来種、イシガメ(写真提供:加藤英明)

大切なのは、生き物のことを正しく知ること

 一度変わってしまった自然環境は、外来生物を取り除くことでしか元に戻すことはできません。万単位の数まで増えたものを駆除するには、長い時間とお金(税金)がかかります。そして、池の水抜きで捕獲した大量のアカミミガメやコイなどは、殺処分になります。生き物には何の罪もありません。人間がまいた種です。

 しかも、どんなに駆除しても、誰かが「自然に帰してあげよう」などと言ってペットのカメや熱帯魚を川に放したら、また同じことの繰り返しです。私もずっと地元の静岡で外来種のカメの捕獲をしてきましたが、川で作業をしていて地域の方に「昨日ここにカメを3匹、捨てに来た人がいるよ」なんて言われると、ものすごい無力感に襲われます。

 何も知らない子どもが「川にこんなカメがいた」とバケツに入れて学校に持ってきたときに、先生が「川に放してあげようね」と言ってしまったらどうなるでしょうか。ペットの動物を野外に放すことは動物愛護管理法違反に当たり、100万円以下の罰金が科されます。知らないうちに子どもに犯罪行為をさせてしまうことになるのです。

 自然の環境を、本来の姿に戻す。そのためには子どもから大人まで、一人でも多くの人に生き物について正しく知ってもらうことが大事だと思っています。

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美)

加藤英明(かとう・ひであき)
加藤英明 静岡大学教育学部講師。1979年静岡県生まれ。静岡大学大学院教育学研究科修士課程修了後、岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カメやトカゲの保全生態学的研究を行いながら、学校や地域社会において環境教育活動を行う。また、未知の生物を求めて世界中のジャングルや砂漠、荒野へ足を運び、その姿は「クレイジージャーニー」(TBS)で「爬虫類ハンター」として紹介されている。外来生物が生態系に及ぼす影響についての研究にも取り組み、「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京)に専門家として参加するなど幅広く活動中。