2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震、2018年の大阪北部地震など、震度6を超える地震が続く中、2019年6月には山形県と新潟県を最大震度6強の地震が襲い、あらためて地震への備えが叫ばれています。DUAL世代は朝から夕方まで家族がバラバラのところで過ごすことが多く、いざというときにどう子どもや財産を守ればいいのか、不安も多いのではないでしょうか。体験型安全教育のスペシャリストである清永奈穂さんにDUAL世代に向けた大地震への心得を伺います。

安全基礎体力は地震に立ち向かう力になる

 この連載ではこれまでに子どもたち一人ひとりが年齢に応じた「安全基礎体力」を身に付け、大人はそれをしっかりとサポートしながら育てていく大切さをお伝えしてきました。「安全基礎体力」の最終的な目標は、子どもが15歳になった頃に自分の身を守ることはもちろん、犯罪に巻き込まれそうな友達を救うなど、共に助け合える人になることです。

 「この安全基礎体力が最も問われるのが、地震をはじめとする災害時です」と、清永さんは言います。

 「災害と防犯は別のものとして考えがちです。しかし実際は災害が起きると火事場泥棒のような犯罪が発生することが少なくありません

 地震が起きたときにどう自分の身を守るか。屋内にいるときに地震が起きた場合、外に逃げるべきか、家の中にとどまるべきかの判断力や、お互いに助け合うコミュニケーション力、災害時に起きやすい犯罪に関することやどうすれば被害を防げるかの知恵・知識など、安全基礎体力の総合的な力を試されるのが、災害時なのです」

 親が職場にいるときに地震が起きたら、親子が再会するまでの間、子どもとは離ればなれになります。「親子が別の場所にいようとも、親と子それぞれが自分の命を守ることが大事」と、清永さんは力説します。そのために子どもに教えておきたいこと、親として知っておきたいことにはどんなことがあるのでしょう。

最初の8秒で、まず身の安全を確保する

大阪北部地震の際のキッチン。ロックをしていない食器棚から食器が飛び出して割れ、床に欠片が散乱した
大阪北部地震の際のキッチン。ロックをしていない食器棚から食器が飛び出して割れ、床に欠片が散乱した

 清永さんは、日本の工学者で防災の専門家でもある平井邦彦長岡造形大学名誉教授と共に、阪神大震災や東日本大震災でのデータを研究し、体験型安全教育プログラムを作成しています。その研究から分かったのが、最初の5分8秒の対応で命が助かる可能性が高くなるということです。

 「震度5以上の大地震は、小さな揺れから始まり大きな揺れを経て、沈静化します。地震が収まるまでの時間の目安は、10数秒から長い場合で5分。最初の小さな揺れは1~8秒です。命を守るためにはこの揺れ始めの8秒間で、身を守る行動をとらなければいけません」。清永さんはそう言います。

 8秒といったら「あ、地震だ」と思って、周りを見回したり、「こんなものかな」と思っているうちに過ぎてしまいます。そのたった8秒の間にどんな行動をすればよいのでしょうか。

いもむしのように横になって安全な場所にさっと転がり込む。頭と足が入ったら、首の後ろで手を組み、頭から首を守る
いもむしのように横になって安全な場所にさっと転がり込む。頭と足が入ったら、首の後ろで手を組み、頭から首を守る

 「1995年の阪神大震災では10歳以下の子どもが569人亡くなっていて、その約4分の3が、最初の12秒で命を落としています。大揺れになったときは動き回ることができなくなってしまいます。最初の8秒に行動することが命を守る第一歩になるのです」と、清永さん。

 「そのためにはまず、物が落ちてこない、飛んでこない、倒れてこない、動いてこないところを見つけ、すばやく移動し、そこで安全を確保することが大事です。いざというときは時間がないので、一気に安全な場所に体を突っ込むことが必要になります。『いもむしのポーズ』のようにして、一気に転がり込む方法も練習しておきましょう。

自身のときを想定して床にペットボトルなどをばらまき、いもむしのように転がって安全な場所に潜り込む練習をしてみよう
自身のときを想定して床にペットボトルなどをばらまき、いもむしのように転がって安全な場所に潜り込む練習をしてみよう

 机の下などにもぐり込んだら、対角線に机の脚を持って揺れをしのぎます。近くに机がなければ、家具などが倒れてこない部屋の中央が比較的安全です。寝ているときは無防備になりますから、ベッドや布団の周りに、落ちてくる、倒れてくる、飛んでくる、動いてくる物がないようにしておくことが大切です」

 揺れによる落下物から身を守るには、体を小さく丸めて両手で頭を守る「だんごむしのポーズ」がよいと言われています。しかし清永さんが推奨しているのは、カメのように両足を追って体を丸め、両手を首の後ろに回して指をしっかりと組む「カメのポーズ」です。大切なポイントは、首の後ろの部分、頸椎を守ること。頸椎にダメージを受けると命に関わる可能性があるからです。

 落ちてくる物に当たらないようにするには、体を丸めて面積を小さくすることがポイントです。すぐ手の届くところに厚い本やフライパン、まな板などの堅い物があれば、頭を守るときに活用できるでしょう。

カメのポーズ。ポイントは指をしっかり組んで、首筋部分(延髄)をしっかり守ること
カメのポーズ。ポイントは指をしっかり組んで、首筋部分(延髄)をしっかり守ること