2020年の入試改革の先を見据えると、わが子にとって必要なのは、主体的に学び、自分の考え、思いを相手に伝え、居場所を創り出していく力です。グローバル化はさらに進み、活躍の場所も国内とは限らなくなります。自らの力で道を開いていかなくてはならない子ども世代にとっては、小学校時代にある程度のびのびと遊んですごして公立中に進み、高校受験をするという道も進路の一つとしてあり得るでしょう。今回は、そんな選択をしたときのために参考になる「首都圏における子どもの教育環境と学区域の関係」を取材しました。お話を聞いたのは、前回に引き続き安田教育研究所の安田 理さんと、住むエリア選びに「学区と世帯年収」という新たな指標を提示している沖 有人さん、そしてZ会進学教室で高校受験指導に当たっている尾田哲也さんです。

【中学受験をしない選択を考えたときの子どもの進路選び特集】
第1回 「みんな受験するから私も」では考える力が育たない
第2回 小学校の学区選びは高校受験まで影響する ←今回はココ
第3回 実はラクではない高校受験 突破力の鍵は小学生時代
第4回 本物のグローバル人材は公立中から生まれる!?
第5回 “自分はエリートだ”と子が思う環境を与えていないか

中学受験をしない子どもの進学ルートは?

 平成28年度、都内の公立小学校卒業者のうち、私立中学校への進学者は17.0%でした(東京都教育委員会 公立学校卒業者 平成28年度の進路状況調査編より)。 首都圏では中学受験が過熱しているように思えますが、約8割の子どもは公立中へ進むことになります。そして、中学卒業後は、下の図のように就職をしたり、受験をして高校や高等専門学校に進学したり、留学することになります。

 公立小・中学校には学区があります。学区というのは市区町村の教育委員会が定めた、公立小・中学校の通学区域のこと(校区、学区域などと呼ぶ地域もある)。公立小・中学校は原則として、その学区内の子どもが通うことになっています。自治体によっては「学校選択制」という制度を導入しているところもあります。その自治体では、学区によって学校が指定されず、子どもが通いたい学校を選ぶことができます(選べる範囲に制限があるなど、選択形態は様々ある)。

 高校受験の際、公立高校の受験では調査書(いわゆる内申点)が重視されます。Z会進学教室の尾田哲也さんによると、都立高校のいわゆる一般入試(学力検査による選抜)の場合は、調査書点(いわゆる内申点=9科目の成績をもとに算出)と学力検査の割合は3:7です。推薦入試の場合はほとんどの高校で内申点の割合が50%と更に高くなります。なお、都立高校は2003年に学区制度が廃止され、東京都内のどこからでも、どの高校も受験できるようになっています。

 私立高校や国立高校は内申点を考慮しないか、考慮しても都立高校に比べて考慮する割合が低くなります(一般入試の場合。推薦入試等を除く)。

公立の名門校にできる子が集まる理由

 保育園・幼稚園の年中から年長クラスになってくると保護者の間ではどの小学校に行かせようかとか、中学受験をする・しないという話題が増えてきます。「小学校入学のタイミングに合わせてマンションを買おうと考える夫婦は多いと思います。そのときにぜひ考えてほしいのが、どの学区の物件を選ぶかということです」と話すのは、沖 有人さんです。なぜ学区が重要になるのでしょうか。

 

 安田教育研究所の安田 理さんは「同じ市内、区内の公立小・中学校といっても、その中には私立中受験率の高い小学校の学区や、都立トップ校への合格人数が多い中学校の学区があるものです」と言います。それがいわゆる公立の名門校というものだそう。

 都内の場合だと、文京区の3S1Kといわれる小学校や文京六中、中央区の泰明小など、公立小・中でも有名な学校の名を聞くことはあります。しかし、名門とはいっても公立です。どうして、“名門”になっていったのでしょうか。

<次のページからの内容>
● 保護者の要求レベルが高い公立“名門”校
● 平均世帯年収と教育レベルは比例する
● 教育熱心で公立志向な人が多いエリアは?
● 公立高受験では調査書が大切 レベルが高い地域は内申点が取りにくい
● 内申点では定期テスト以外の要素も重要
● 高校受験の経験は人生の役に立つ