今年4月、「働き方改革関連法」が施行されました。DUAL読者の皆さんの職場でも、長時間労働や有給休暇取得について、話題になっているのではないでしょうか?

でも、「この働き方改革って、本当に効果あるの?」と疑問に感じている人もいると思います。そこで「働き方改革」について初歩から学べるゼミを開催。東京大学大学院経済学研究科教授で、働き方に関する多くの著書がある柳川範之先生にお話を伺っていきます。柳川先生のゼミの最終回は、「日本流の働き方改革」がテーマです。

DUAL Specialゼミ 柳川範之先生/全3回
(1) 「働き方改革関連法」で働き方は本当に変わるのか
(2) 働き方改革はなぜ実感が得られないのか
(3) 多層的なつながりの中で「日本流の働き方改革」を ←今回はココ

「多層的なコミュニティーへの帰属」が大切

日経DUAL編集部(以下、――) 中堅企業を中心に「働き方改革」が進んでいる企業の話を聞きますが、大手企業の取り組みで印象に残った事例などはありますか?

柳川範之先生(以下、敬称略) 最近、大手企業で面白い取り組みだなと思ったのは、コマツの事例です。「i-Construction」というそうですが、建築現場にICT(情報通信技術)を全面的に活用する施策がどんどん進んでいるようです。

 コマツでは、ショベルカーをリモートでコントロールできる仕組みを取り入れており、経験の浅いオペレーターでも精度の高い操作が可能となったり、少ない人数でも効率的に作業が進んだりするそうです。こういった現場は、これまでは男性が働いていることが多かったと思いますが、これからは女性の活躍の場も広がるかもしれません。

―― 日本では今、人手不足も問題になっていますが、その問題も解決していけるようなイノベーションが起きているのですね。「働き方」というと、北欧などを中心とした「早く家に帰って夕食を家族で食べるシーン」が理想の生活のように語られることもあります。もちろん、それも素晴らしいことですが、いわゆる「働き方がうまくいっている国」のモデルケースと、日本とでは、一体何が違うのでしょうか。

柳川 日本では、「会社組織がほぼ唯一のコミュニティー」という状況で働く人がほとんどでしたが、これは世界的に見ても独特な文化と言えるでしょう。女性は、出産や育児などによって、住んでいる地域にコミュニティーが広がることが多いですが、男性は、平日は仕事をして、夜は会社の同僚や上司、仕事の取引先の人などと飲みに行き、家に帰って寝るだけという人がまだまだ多いと思います。海外では家族や血縁関係の付き合い、地域でのつながりのほか、国によっては教会のグループなどもありますが、日本ではそういった多様なコミュニティーに所属する人が少ない。「週末は地元で少年野球を教えています」という人もいますが、基本的に男性は家庭と仕事以外の居場所が少ないですよね。

 「多層的なコミュニティーへの帰属」ということが、私はこれから非常に大きな鍵になってくると思っています。

―― 多層的なコミュニティーへの帰属……新しいキーワードですね。

柳川範之・東京大学大学院教授
柳川範之・東京大学大学院教授