今年4月、「働き方改革関連法」が施行されました。日経DUAL読者の皆さんの職場でも、長時間労働や有給休暇取得について、話題になっているのではないでしょうか?

でも、「この働き方改革って、本当に効果あるの?」と疑問に感じている人もいると思います。そこで「働き方改革」について初歩から学べるゼミをスタート。前回に続いて、東京大学大学院経済学研究科教授で、働き方に関する多くの著書がある柳川範之先生にお話を伺っていきます。

DUAL Specialゼミ 柳川範之先生/全3回
(1) 「働き方改革関連法」で働き方は本当に変わるのか
(2) 働き方改革はなぜ実感が得られないのか ←今回はココ
(3) 多層的なつながりの中で「日本流の働き方改革」を

働き方改革の「主語」は一体誰なのか

柳川範之・東京大学大学院教授
柳川範之・東京大学大学院教授

日経DUAL編集部(以下、――) 世の中では声高に「働き方改革」が叫ばれていますが、現場では「あまりうまくいっていない」という声も多くあります。(参考記事「働き方改革は8割浸透 でも「ざんねん」も満載」)。一体なぜこうなってしまうのでしょうか?

柳川範之先生(以下、敬称略) 今は「調整過程にある」ことが一つの要因でしょう。法律が変わり、企業のトップが代わったとしても、現場で働く人みんなが変わっていかないと、実感は得られません。現場が変わると、それに合わせてまた法律も改正される。制度と現場が車の両輪のような形になって、時間をかけて変わっていくものだと思います。

―― 現場の「納得感」がないと、全員の意識も行動もなかなか変わらないですよね。

柳川 とはいえ、社会のマインドは少しずつ変化してきています。ひと昔前は、栄養剤のCMで流れた「24時間戦えますか」の言葉をみんな疑問に思うことはなく、うなずいていたと思いますが、最近は「長時間働くことが必ずしもいいわけではない」と現場の感覚も変わってきましたよね。

 ただ、長時間働けないと、現場の人は「お金を稼げない」「そもそも人手が足りないので仕事が回らない」といった問題も起こりますし、会社も「仕事があるから、もっと働いてほしい」という要望はあるでしょう。立場や人によって温度差はあると思います。

―― みんなが働きやすくなる「働き方改革」は、うまくいけば素晴らしいことのはずですが、正解の方向がなかなか見えないのはなぜでしょうか。

柳川 働き方改革の「主語」は一体誰なのかを考えてみる必要があります。「改革をするのは、誰ですか?」と聞かれて、パッと答えられる人は少ないのではないでしょうか。

 今回の働き方改革は、「政府主導」で出てきた話なので、多くの人は「急に上から話が降ってきた」と感じているはずです。「トップが言うから仕方ない」「残業を減らさなくてはいけない」と、半ば義務感のように感じていませんか?

 「政府が」「社長が」「上司が」やれというから、やるしかないという義務感ではなく、「誰が、何のために改革をするのか」ということが、現場の人にとって腹落ちしないと、改革は進まないのです。

―― 本来は、今とは逆の方向で改革が進んでいくのが望ましいということでしょうか?