系列の東京未来大学と連携し、スタッフと教職員が一体となって不登校の子どもたちを支えている「東京未来大学みらいフリースクール」。上編では、異年齢の子ども同士が一緒に過ごすよさや、学習指導要領にとらわれない、独自の基礎学習についてお伝えしました。下編では、社会参画できる人を目指すために工夫された時間割の内容や、卒業生の進路についてお届けします。

(上)不登校児に社会参画への興味を育てるフリースクール
(下)専門学校、高校との関わりが不登校児の夢を育てる

学校での傷が癒えるまでは、学習に気持ちが向かない

 不登校の子のなかには、学校には行っていないけれど、学年相当の学習はしたいという子もいます。親としても学習の問題は気になるところですが、みらいフリースクールではどうしているのでしょう。国語の教師でもある千田桃世先生に聞きました。

 「当スクールに来ているときに、学習もしっかりしたいという子の場合は、必ずしもこちらのカリキュラム通りの課題に取り組まなくてもかまいません。本人が持っている教科書やテキスト、タブレット教材などを基に、各教科の先生に教えてもらい、学習を進めるようにしています」

 不登校を経て、子どもがフリースクールに通い始めるようになると、親は「学校に行っていなかった分を取り戻すために、どんどん学習させたい」「勉強するように子どもに声をかけてほしい』といった期待をしがちです。

 けれども、千田先生によると、勉強よりまず大事なのは家から外へ出て自分自身で目的の場所に足を運んでいることや、友達と関わりを持つことなのだそう。そこができてくると、自発的に学習したいという気持ちが芽生え、自分の将来について考えられる次のステップに移っていけるのだといいます。

トライアルレッスンの時間は近くの公園へ行き、体を動かすこともある
トライアルレッスンの時間は近くの公園へ行き、体を動かすこともある

自分の意思で勉強を始めるときが来る

 「今は友達同士で集まってカードゲームなどをしている子たちも、ある時期までは横のつながりが全くありませんでした。自由課題の時間になると、みんながそれぞれ点々と席に着き、前を向いてイヤホンをして、一人で黙々とゲームをして過ごすことがほとんどだったのです。

 ところが、誰かが教室にあった地学や理科に関するカードゲームを見つけたことをきっかけに、みんながカードゲームを好きで、共通の趣味であることが分かりました。翌日くらいからそれぞれがカードゲームを持ち寄るようになり、一人ひとりの距離がさらに縮まると、グループの中に団結力のようなまとまりが生まれたのです」

 すると、子どもたちの間で化学反応が起こりました。気の合う友達ができたことで、今まで絶対に授業でプリントをやらなかった子たちが、学習に取り組むようになったというのです。

 「勉強は誰かにやれと言われてもやりたくないときはやりたくないですし、やりたいと思う気持ちがなければ、納得して学習に向き合うことができません。でも、仲良くなった子がプリントに取り組んでいるのを見たら、『面白そうだからやってみたい』『じゃあ自分もやってみようかな』と思い、自分の意思で取り組むことができます。

 私たちが一番に大事にしているのは、子どもたち自身が自分でそう思えるようになることです。学校での傷つき体験が重くのしかかっている状態のときには、勉強に身が入らないのは当然です。それが癒え、勉強したいと自分が思えるようになるまでは、学習という次のステップに進めないのだという思いを新たにしました」と千田先生。

 

 学習に向かっていけるまでのスパンはその子によってそれぞれで、気の合う子を見つけ、一気に友達関係を深めた後、2週間くらいで勉強のスイッチが入ることもあれば、1年以上かかる子もいるそうです。

 「なかには学習に取り組めるようになったものの、再び勉強から遠ざかってしまう子や、行ったり来たりを繰り返す子もいます。けれども、子どもを急かしたり、焦りは禁物です。その子なりのペースに合わせることが大切で、私たちは家庭とも連携しながら意思の芽生えを見守るようにしています

創部も部員募集も子どもたちが自発的に行っている
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