基礎科目は個別指導で学習する

 「みらいフリースクール」の基礎科目は国語と算数・数学、英語。この3科目には専科の教師がいます。小学校4年生から中学3年生まで、異年齢の子どもが集まっている教室で、どのように授業をしているのでしょうか。数学の授業をのぞいてみました。

プリントが配られ、数学の授業がスタート。スクールサポーターも子ども達と一緒に算数パズルに取り組む
プリントが配られ、数学の授業がスタート。スクールサポーターも子ども達と一緒に算数パズルに取り組む

 数学の授業は、同じ曜日の午前と午後に1コマずつあります。授業が始まる時間になっても「起立、礼」のような挨拶はありません。

 先生が授業の開始を宣言し、プリントを配ると早速取り組む子もいれば、友達とおしゃべりやゲームをした後に取り組む子もいて、思い思いのタイミングでプリントに向かいます。配られたプリントをやるやらないは自由です。

 配られたプリントをのぞかせてもらうと、どれも同じ、パズル問題です。学年に関係なく小4から中3までの全員が同じパズルの問題に取り組むのです

 

 先生はプリントに丸をつけながら教室を回ります。時々、教室から姿を消すと思ったら、隣の教室で一人で勉強している子の様子を見に行っていました。

 みんなが黒板のほうを向き、机の上には開いた教科書があり、先生の言葉に耳を傾けるというような、いわゆる「授業」とは全く違います。その狙いを数学の小田先生に聞いてみました。

数学の授業を担当する小田敏弘先生。豊島区で算数・数学塾を運営している
数学の授業を担当する小田敏弘先生。豊島区で算数・数学塾を運営している

 「勉強が分からない子どもは授業に参加できず、自分はその場にいなくていいと感じてしまうものです。でも、授業中だからそこに座っていないといけない。そういうことは子どもにとって、とてもつらいことです。

 これは、その子の主体がないがしろにされている状態といえます。おまけに、想像の翼を羽ばたかせてうっとりしていると、ボーっとするなと先生に怒られてしまう。子どもからしてみると大変理不尽なことで、そこで傷ついている子がたくさんいるのです。

 フリースクールに来る子たちの中には、そういった理不尽さに耐えられなくなった子たちがたくさんいます。

 学年に関係なくやっているパズルのいいところは、地道にやっていれば、誰でもできる点です。全部できなくてもかまいません。本人がやりたくなければやらなくてもいい。でも、やり始めると、自分がやっているという感覚を得ることができます。今日、配ったパズルのプリントにも、“自分がやっている感”を取り戻してほしいという目的があります

 

 午後は、子どもたち一人ひとりの課題を用意し、個別指導の形で勉強に取り組みます。課題は学年とは関係なく、数学が得意で高校の内容に取り組んでいる中学1年生もいれば、学年相当の課題に取り組む子、学年を戻ってやる子もいます。小田先生は一人ひとりに目を配り、何ができて、何ができていないか、その子その子の今をきちんと見ています。

 英語の時間は小学生でも参加できるよう英語のカルタやボードゲームをします。中学生は受験対策のために英文法も学びます。「数学と英語は、それぞれ塾を経営している先生に来てもらっています。教えることはもちろんのこと、系列の東京未来大学で『不登校カウンセリング基礎』を受講していますので、子どもたちへの接し方や指導にも慣れています」と千田先生。

 国語を教える千田先生は、読解力はどの教科にも影響するため、まずは、文章を読む力をつけさせるようにしているそうです。

 「国語が嫌いな子に理由を聞くと『自由に答えなさいと言われたからそう書いたのに、先生にバツをつけられたから』と答える子が少なくありません。国語を嫌いにならないようにすることを一番に心がけているので、その子その子が考えて書いてくれた回答に関してはバツをつけないようにしています。ただ、正答には導いてあげないといけませんから、『じゃあこの場面だと、こういう考え方もできるかな』『こんな考えもあるよね』といったように、導いていくようにしています」

 後編では「みらいフリースクール」独自の生活についてさらに詳しく紹介し、気になる進路のことも聞いていきます。

(取材・文/小山まゆみ 構成/日経DUAL編集部 福本千秋 撮影/花井智子)