親も子も冷静な判断ができないとき、第三者の存在はとても重要

 不登校を続けていた浅見さんが、自分以外の人に心を開くきっかけになったのは、教育支援センターの女性相談員Sさんとの出会いです。

 「それまでの間に出会った大人は、僕が学校に行っていないことを知ると『なんで学校に行かないの?』とか、『どうしたら通えるようになる?』などと言って、原因を突き止めようとする人が多数でした。

 その場しのぎで僕が『学校に行く』と言えば喜ぶし、『やっぱり行けない』と言うと怒られたり、諭されるのです。ところが、Sさんは違いました。相談室での会話中、僕が『学校、行ってなくて』と言うと、Sさんはこう言いました。

 『へえ、そうなんだ。でさ、きのうの巨人対阪神戦、見た?』。 僕が『……あ、はい、見ました』と答えると、Sさんは『そっか、直輝くんは野球が好きなんだね! すごい試合だったよね! 直輝くんはどっちを応援してたの?』こう続けました」

 たった数十秒の会話でしたが、浅見さんは大きな衝撃を受けたといいます。Sさんは浅見さんが学校に行ってようが、行っていまいが、態度がなんら変わらない人でした。学校に通っていても通っていなくても、浅見さん自身と会話をして、どんなことを好きなのか、何に興味があるのかを見てくれました。浅見さんは、自分の存在そのものを認めてくれたような気がして、心の底からうれしくなったと思い返します。

 「子どもはみんな自分のことを認めてほしいと思っているので、一人でもそういう人に出会えると心が大きく変わっていきます。生きる希望が湧いてくるんです」

 そしてSさんと出会った教育支援センターは、浅見さんだけでなく、家族にとっても大きな支えになっていきました。「子どもが学校に行けず苦しんでいたら、親だって苦しい。苦しいのは、子どもだけではないはずです。また、当事者であればあるほど冷静な判断ができなくなるので、家族を支えるためにも親以外の第三者の存在はとても重要だと思います」と浅見さんは外部支援の存在意義について話します。

 「ちなみに後から聞いたのですが、両親は僕に何度も優しい声掛けをしてくれていたそうです。でも、僕は気付いてすらいなかった。子どもはなかなか親に心を開けないですし、親に認めてもらいたいと思いながら、なぜか親の愛を拒否してしまうこともあります。そういう意味でも第三者による家族の支えはとても大事だと思います

楽しそうな母の姿を見て、心が楽になった

 学校に通わず心を閉ざす子どもと、どうすれば会話できるようになるだろう? どうすれば子どもが外に出られるようになるだろう? と悩む親に向けて、浅見さんは「子どもの好きなことを起点にするのが特に重要な鍵だ」と話します。

 「ゲームでもなんでも構いません。その子が興味を持っていること、好きなことに親も興味を持ち、それに向き合ってくれたら、子どもはすごくうれしい。そこから途絶えていた親子の会話が再スタートした例をいくつも知っています。

 好きなことをエサにして何か別のことをさせるのではなくて、親御さん自身が一緒になって子どもが好きなことに興味を持ってくれることがポイントです。僕の場合も、一緒になって興味を持ってくれる姿勢が本当にうれしかったです。親が、自分の存在を肯定してくれたような感覚になるんです。」

 親子で楽しむだけでなく、親自身が人生を楽しむことも大切にし、親が笑顔でいてほしいと浅見さんは話します。それは浅見さんが、お母さんから学んだことなのだそう。「母は、あるときからやけに外出するようになりました。それは『直輝を笑顔にするには、まずは自分が笑顔にならないといけない』と思ったことがきっかけで、好きなアーティストのライブなどに行っていたようです。母がそんなふうに考えて、行動に移してからは、確かに家の中の空気が大きく変わっていきました。表情が柔らかくなっていく母を見て、僕もまた心が楽になっていったんです」

 子どもが苦しい思いをしているのは親にとってつらいことですが、逆もそうです。親が苦しい表情をしているのは、子どもにとって一番苦しいこと。苦しみをお互いに感じ合い、負のスパイラルにとらわれてしまいます。しかし、親が元気になることが、子どもが元気になる鍵になるのでしょう。

 「母が何かを楽しんで、母自身の心が元気になることが僕にとっては一番励みになり、元気になる鍵でした。親が元気じゃないのに子どもを元気にするのは難しいことです。今、悩んでいるお母さんやお父さんはぜひ心から何かを楽しんでください。これは親自身の想像をはるかに超えるほど、子どもにとって、とても大きいことです。

 僕の母の場合も、わが子が不登校なのに、笑顔になるなんて難しいことだったと思います。しかし、その、難しいながらも元気になろうとしている母の姿からも、僕は勇気をもらいました。親の笑顔は子どもにとって最大の幸せだと思います」

取材・文/小山まゆみ 写真提供/浅見直輝