安心できる場だから自分の気持ちを話せ、相手のことも知りたくなる

 ここまでの奥地先生の話で子どもたちが自分で学びたいこと、やりたいことを決め、それを応援するのが東京シューレの基本的なスタンスということがよく分かったのではないでしょうか。普通の学校文化とは違う、東京シューレの文化の中で育つ子どもたちはどんな様子なのでしょう。ここでは東京シューレのある日をご紹介します。取材でおじゃました日は年度末の修了式の日。東京シューレではこの日を「納め会」と呼んでいました。

 東京シューレの入学要件は、自分の意志でここに来たいと思っている不登校の子、です。小学校低学年から入会でき、20歳までに高校コースに入っていれば、23歳まで在籍することができます。

 取材に伺った平成30年3月現在、東京シューレ王子に在籍しているのは86名(男子60名・女子26名)。この日の納め会には男女合わせて20名の在籍者とスタッフ7名が参加しました。

 東京シューレでは子どもたちの意志や本人のそのときの気持ちを一番大事にしています。子どもたちは自分の気持ちをベースにして、自分の居場所を選んだり、やりたい活動をしているので、自分が来たいなと思ったときに来て、今日はもう帰ろうかなと思ったときに帰ります。普段の日も出席を取るわけでもなければ、休みの連絡を入れることもありません。「納め会」の日も一人ひとりが自分の意志でここへ来ました。

納め会に参加したメンバー。スタッフも子どもたちも混ざり合い、長テーブルを囲み、お互いの顔が見えるように座る
納め会に参加したメンバー。スタッフも子どもたちも混ざり合い、長テーブルを囲み、お互いの顔が見えるように座る

 不登校というとどうしてもネガティブなイメージを持っていた記者ですが、部屋にいる子どもたちは、皆、とても明るく、イキイキとしています。仲間とじゃれあう子もいれば、はにかみながらも優しい笑顔を見せる子、友達と楽しそうに笑う子もいて、同年代の子どもたちの集まりと変わりません。

 納め会では一人ひとりにマイクが渡り、一年間の振り返りや印象に残ったこと、楽しかったこと、新年度にやってみたいことなどを順番に話しました。

 「司会やバンドを組んだり、自分がやりたいことをやれてよかった。来年度も同じような感じでやっていきたい」と元気いっぱいな子もいれば、「特に行事にも参加することなく過ごしたけど、春からも現状維持で」というマイペースな子もいて、聞いている子どもたちもスタッフもニコニコと、それぞれの発言を受け入れたり、チャチャを入れたり。

 中にはおしゃべりが得意ではない子もいます。何を話そうか迷っている子がいると、みんなで緊張をほどくアシストをしたり、「ほら、あれは?」と声をかけたり、最後はしっかり笑いで締めるなどの連携プレーも。ときには助け合いながら、小学生から20代の若者まで一人ひとりが自分の言葉で一年を振り返っていたのが印象的です。

 東京シューレの高等部は3年間で終わるという縛りがなく、最長で23歳まで在籍できます。高校卒業資格を取るまではそこに気持ちが向かうので、取り終えたあとに東京シューレの活動を思いっきりやってみたいという理由で引き続き在籍する子もいます。あるいは自分がこれからどういうふうに生きていくか考える時間にしたいなど、様々な思いがあって、ここに残る選択をする子も多いのだそう。この日も「もう1年、高校生として残ることを決めました。今年は自分の中で変化があった年だと思います」と宣言する子がいました。

 その子自身に今どういう気持ちがあって、今後どういうことをやっていきたいのかを話せるということは、東京シューレが子どもたちにとって安心できる場だからなのかもしれません。東京シューレの子どもたちは来る、来ないも含めて自分の意志が尊重され、自由が保障されています。思ったことを自由に言えて、自由に振る舞える。それこそ自分が安心して存在できる場所だと言えるでしょう。

 自分の気持ちを他の人に共有してもらいたい、相手のことも知りたいという気持ちが生まれてくるのも、安心できる場だからこそです。そうでなければ誰だって人前で自分を出すことなんてできません。

 この日の「納め会」にしても、自由が尊重されています。学校の修了式であれば、全員出席するイメージがありますが、東京シューレの場合は、納め会も普段通り。来る子もいれば来ない子もいて、それもまた一人ひとりの判断によるものなのです。もし出席をマストにしたら、途端に子どもの意志を尊重する東京シューレの文化が崩れてしまうでしょう。

 次ページでは奥地先生から不登校の子どもがいる共働き家庭の親に向けてのアドバイスを紹介します。

異年齢の集まりだが、お互いの意見を尊重し合っている
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