子どもが不登校になると共働き家庭の親にとっていちばんの悩みどころになるのが、日中の子どもの居場所です。学校以外で子どもの行くところの候補として「フリースクール」という言葉が思い浮かぶ人は多いのではないでしょうか。そこでフリースクールで子どもたちがどのように過ごしているのか、そのパイオニア的存在でもある東京シューレの創設者、奥地圭子さんにお話をお聞きしました。前回は、通常の学校の時間割に当たる「プログラム」が子どもたちの話し合いで決まること、その中には自然と学習の要素も入ってくることを紹介しました。今回はそのプログラムに子どもたちがどのように参加しているのか、スタッフと子どもの関わり方、そして実際の子どもたちの様子をリポートします。

<上編はこちら> 不登校児の居場所フリースクールはどんなところ?

どのプログラムに参加するかは子どもが自分で決める

 プログラミングや音楽、ダンス、食育、アニメ、そして学業と生徒の発案でさまざまなことが学べ、アクティブラーニングの要素もある東京シューレのプログラム。いわゆる学校の時間割と違うのは、プログラムへの参加を一人ひとりの意志に委ねている点です。

 学校では登校したら、児童は1時間目、2時間目、3時間目といったように時間割通りに授業を受けていきますが、東京シューレでは違います。すべてのプログラムに参加する子もいますが、子どもたちは自分が参加したいプログラムを選び、それ以外の時間はフリースペースで過ごす子もいます。

 フリースペースは小中等部の部屋がある5階と高等部の部屋がある3階に設けられ、異年齢の子どもたちが一緒にゲームやトランプをして過ごします。音楽が好きな子どもたちはギターを弾いて過ごすこともあります。彼らにとってはそれがまた楽しくて、ここから友達ができることもあります。これも大事な時間なのです。

 33年前に開設した当初から、東京シューレでは子どもたちが自分の意志で物事を決めることを尊重してきました。ミーティングを開き、みんなで意見交換するスタイルもずっと変わっていません。子どもの場所は、子どもたちが自分で作る。それが彼らの安心感につながるのではないかと考えるからです。

子どもたちがやりたいことを応援するのがスタンス

 東京シューレがもうひとつ大事にしているのが、子どもたちがやりたいことを応援することです。

 日本の教育論は"やるべきことをやらせる”です。学校に行かないといけない。宿題をやらないといけない。受験が始まるから、これをやらないとダメ。どうしてもそうなってしまいがちです。

 しかし、やるべきことを子どもにやらせようとするのは、大人が不安だからです。学校で傷つき、苦しんでいる子どもが、やるべきことをやれるでしょうか。まずやらないでしょう。手に付きませんから。

 たとえやるべきことをして、やり終わり、お母さんに褒められたとしても、子どもは大してうれしくありません。

 では、自分がやりたいことだったらどうでしょう。やりたいことがあると、多少しんどくてもエネルギーが湧いてきます。物事が思ったようにスムーズに行かないことが出てきても、自分がやりたいことなら、あれこれ考えて困難を解決しようとするものです。そして、それをやり切ったときの喜びは大きく、達成感もあり、何より本人の自信につながります

 こういうお話をすると「子どもがやりたくないことはやらないのか」という質問を受けるのですが、そうではありません。彼らは自分がやりたいことをやっていくプロセスで、やりたくないことが立ちはだかったときでも、やる必要があると思ったことは、自分の意志でやります。

 例えば、高校受験がそうです。子どもは受験勉強をやりたいわけではありませんが、自分が高校に行きたいと思ったら、勉強します。

 特に学びは、子どもがやりたいと思ったら、いくらでも伸びます。不登校の子には学校に行かなかった時期が2年や3年くらいはあるものですが、傷が癒え、本人が勉強をやりたいと思ったら、あっという間に追いつく子も多いのです。

 小学校で不登校だった子が中学1年生になって勉強をしようと思い、分数が分からなかったとします。そういうときは小学校の算数まで戻って勉強をしようということになりますよね。するとどうなると思いますか。

 小学生のときよりも中学生になった今のほうが集中力や学ぶ力、考える力などが上がっているため、子どもはより早く理解します。人間的な成長や、何をどうやればいいのかといった総合的な力も上がっているので、勉強に追いつくのは大人が考えている以上に早いのです。