これまで多くの子どもたちや企業の社員、サッカー選手などに「言語技術」を教えてきた、つくば言語技術教育研究所の三森ゆりかさん。日本人の話す力、書く力、読む力などが諸外国に比べて劣っていることを指摘し、「日本の国語の授業では、社会に出てから使える本当の言語力は身に付かない」と警鐘を鳴らします。日本と海外の言語教育の違いや、日本人に言語教育が不足していると感じる理由などについてインタビューしました。新連載として紹介します。

言語技術教育を取り入れたい企業が増えた

 ここ数年、「社内に言語技術教育を取り入れたい」という大手企業からの仕事の依頼が増えました。企業の研修担当者から連絡をもらうことが多いのですが、話を聞くと、どこも「いい社員を育成するにはどうしたらいいのか?」と考えたとき、コミュニケーション能力が課題だと感じているようです。

 多くの企業がこれまで、コミュニケーションスキルやロジカルシンキングなどの研修を行ってきたということでした。ただ、どの研修も理解はできるけれど何かが中途半端で、「仕事に生かせるのか?」と疑問に思ってきたそうです。その原因を追求してだどりついたのが、つくば言語技術教育研究所とのことでした。

 企業研修やビジネススクールなどに行った方々の話を聞いていると、結果的にケーススタディーで終わってしまうことが多いようです。ケーススタディーはそのケースにならないと、スキルとしては使えないものです。だから、そういうものを受けた方々は何か中途半端な気持ちになるのだと思われます。

 そもそもロジカルコミュニケーションもコーチングも「Language Arts(ランゲージ・アーツ)」が土台にあって、その上に成り立っているもの(図1)です。だから、それだけを部分的に学んでも何か腑に落ちないのは当たり前です。土台が抜け落ちているのですから。

【図1】
【図1】

 ランゲージ・アーツとは「読む、聞く、論じる、書く」といった言語技術を組み合わせながら複雑に応用が利くように組み立てられたカリキュラムに基づく教育のことです。欧米では12年かけて一貫してこれを母語教育として受け、言語を技術=スキルとして習得します。そして、それがすべての教科の基礎となります。つまり言語技術は土台になるもので、すべてに通じるものなのです。

 このことにいち早く気付いたのが大手企業で、それが企業からの仕事の依頼が増えた理由です。

 大手企業の社員たちは普段から海外の企業と仕事をしており、交渉や取引などを行うなかで、質の高いコミュニケーションを求められます。ところが、企業における研修を受けるなかで、土台の欠落に気づかれた方が多いようで、色々調べる中で「言語技術」に行き当たり、私の研究所に「言語技術を研修に取り入れたい」と連絡を取ってくるようです。私はこうした企業からの研修依頼を、小中高で指導している基礎基本のみの実施として承諾いただいたうえで、引き受けています。