受験生の声をもとにした3つのこだわり

 平吹さんがスクールタイムの開発でこだわった点は3つ。まず一つ目は、文字盤のサイズ。子どもが中学受験を経験した社員にアンケートを取り、子どもの腕になじみやすいサイズをミリ単位で選びました。文字盤は時間配分のしやすさやデジタル時計が試験会場に持ち込めないという事情から、アナログ表示を採用しました。

 さらに社内外のリサーチで、「試験会場では窓際の席で日光が反射して文字盤が読みづらかった」という意見が上がりました。そこで、どこから見てもきちんと時間が読める視認性の高さも重視しました。

 2つ目に考慮したのはムーブメントです。「店舗へのヒアリングで、毎年入試の直前に電池を交換するための駆け込み依頼が多いと聞き、電池切れの不安要素をなくすため、交換不要のソーラータイプを使用することにしました」。

 3つ目は、バンドの素材を革にすること。「日常使いがしやすく、腕になじみやすいもの。さらに自立しやすさ。これをすべてかなえるのがレザー素材でした。中学入学以降も使いやすい高級感もあり、差し色でさりげないおしゃれさも演出できます」。

 平吹さんの方針は明確に定まりましたが、3つのこだわりを実現できたのは、スクールタイムをキャラクターウオッチの普及価格帯ではなく、セイコーブランドとして2万5000円(税別)設定で製作したからこそ。「子どもたちにきちんとした時計を着けさせたい」という保護者の切なる願いを形にしたスクールタイムは、祖父母が孫にプレゼントすると同時に自分が使うために「もう1本」購入するケースが多いそうです。

 「子どもたちの安心・安全に貢献するデザイン」「子どもたちの創造性と未来を拓くデザイン」「子どもたちを産み育てやすいデザイン」というキッズデザインの理念の実現と普及を目指すキッズデザイン賞に発売直後に選ばれたのは、スマートフォンの普及で時計離れが進む中、ファーストウオッチとして質の高いデザインで時計としての本質を表現しているから。

 後編では、平吹さんの実体験から生まれたスクールタイムのコンセプトを実際のデザインに落とし込んだデザイナーの伊東さんの試行錯誤を紹介します。

取材・文/北川聖恵  撮影/村田わかな