アキバのオタクをいじるBBCの取材をいじり返した結果は…

 何年か前には、BBCが「実在の人間よりもゲーム内の女の子に恋する男たち」っていうなんちゃってドキュメンタリーを流していました。ネット掲示板のハンドルネームで取材された日本人の男性2人が「Otaku」として登場。これも、キャラクターにしか恋ができない日本の男性たちを少子化と結び付けているんです。それもちょっと面白半分で。こういう「日本をいじるノリ」の番組が多くて、年に3回くらい出てくるといった印象があります。

 アキバのオタクとして登場した2人のほうも、「外人ってバカだなあ」っていう感じで、ちょっとふざけてインタビューに答えているんですよ。「あなたは実在の女性には何も感じないんですか?」って聞かれたらニヤニヤして、「全く感じませんね」って答えたりして。これって、ちょっとした大阪ノリなんですよね。いじってくる相手にいじり返す、みたいな。ユーモアのセンスがあって、日本のことを多少知っていれば、「またまた~」って思う受け答えなんです。でもそういうニュアンスを知ってか知らずか、編集では「これが代表的な日本の男性だ」みたいな感じにされている。

 ロリコン漫画を読んで、ゲームのキャラクターに恋をして、本物の女性とは話ができなくなった日本の男性たちが、子どもが生まれない状況に拍車をかけている。しかも彼らが働くのはブラック企業……もう無茶苦茶です。で、この番組を誰かが雑に日本語翻訳してネット掲示板に載せると、「外国人は出ていけ! もう日本に来るな」みたいなナショナリズムとネトウヨ的な反発を生む。

国際的に通用する論理を組み立て、英語で発信する

 ほとんどの日本人は、自分たちの国がこんなふうに断片を組み合わせて短絡的に報道されていることを知りません。なぜなら英語での報道を読んでいないから。日本人は日本語というガラパゴスの中に長くいすぎて、「しょせん海外で何を言われたって関係ないだろ」みたいになっている。

 

 でも、いつまでもガラパゴス状態のままでいては、世界での日本のイメージがどんどん具体的にゆがめられていきます。

 こういうことを是正するためには、やっぱり日本の政府なり、日本国民の一人ひとりが英語で発信する必要があります。日本語で反論したって日本人しか読まないし、「外国のものさしでオレたちを判断するんじゃねえ」みたいなキレ返しだと、今度は国粋的で民族主義だと、やればやるほどレッテルが増えるだけです。それではダメ。

 日本語で書いたものを英語に翻訳しても通用しません。なぜなら、日本人の思考回路で納得できるように書かれたものは、論理よりも情緒に重きが置かれているからです。論理4割、情緒6割くらいでしょうか。そうではなく、様々な視点から、国際的に受け入れられる論理を組み立てて、英語で雄弁に発信していく。

 ちなみに日本はテレビだと、情緒が8割になっちゃいますね。よく言えば共感を大事にしているということですが、ジャーナリストとして英語で世界のニュースを追いかけているのと、日本のワイドショーでコメンテーターとして過ごすのとでは、あまりにも隔たりが大きい。二重人格になりそうです(笑)。そのことについては次回お話ししたいと思います。

「日本人が日本語というガラパゴスの中に閉じこもっていると、実態と離れたイメージが世界で独り歩きしていきます」
「日本人が日本語というガラパゴスの中に閉じこもっていると、実態と離れたイメージが世界で独り歩きしていきます」

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美 写真/坂斎清)

モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン 1963年、ニューヨーク生まれ。日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学、MIT、スタンフォード大学などに同時合格。東大を1学期で退学し、ハーバード大へ。電子音楽とアニメーションを専攻し、88年に卒業する。84年、在学中に刊行した自叙伝『よくひとりぼっちだった』(文藝春秋)が5万部を超えるベストセラーに。大学卒業後は日本に拠点を置き、ラジオパーソナリティーとしての活動を経て、現在は国際ジャーナリスト、DJ、ミュージシャンとして幅広く活躍中。「スッキリ」(日本テレビ)、「所さん!大変ですよ」(NHK総合)などにレギュラー出演。近著に『「悪くあれ!」窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)。