国際ジャーナリストとして日々、海外メディアの報道に接しているモーリー・ロバートソンさんは、「世界で報じられる日本」が正確性を欠く傾向にあることを指摘します。なぜそのようなことが起こるのでしょうか。日本語と日本社会に精通するモーリーさんだからこそ分かる日本と世界の隔たりの実態と、私たちが抱くべき危機感について話します。

日本のおもてなしは、ブラック労働の上に成り立っている?

 皆さんは、海外のメディアで日本や日本人がどのように伝えられているか、意識したことはあるでしょうか。

 僕はジャーナリストとしての情報収集は、もっぱらインターネットを通じて行っています。日本国内のことはネットに掲載されたニュースや、日経、朝日といった有料のニュースサイトから。海外のことも、ジャンルによって信頼しているニュースソースは大体決まってきています。ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポスト、ガーディアン、BBCを巡回すると分かる内容というのがあるのですが、逆にこれらのメディアが得意ではないジャンルもあったりします。その一つが、日本に関する報道。実態とかなりずれているというか、正確性を欠くことが多いです。

 ニューヨーク・タイムズが「日本は今、右傾化が激しい」といった記事を書いていたことがありましたが、中身は日本の大衆紙に書いてあることをそのまま英語化したようなもの。「日本はこういう国だ」と決めてかかっているような感じです。例えば今、日本には「ネトウヨ」と呼ばれる存在がいますが、彼らの影響力がどれくらいあるのか?とか、結局左翼なんじゃないの?とか、いろんな意見がある。日本のジャーナリストですらその実態をはっきりつかみきれていないですよね。そんなふうに政治のランドスケープが混とんとしているところを、海外のメディアは簡略化しすぎて報じている傾向があります。

 あとは、どこかの経済メディアで「日本のおもてなしは両刃の剣だ」という報道が出ました。日本の飲食店では頼んでもいないのにお水が出てくるし、どこへ行っても信じられないぐらいサービスが丁寧で、信頼性や清潔感がある。でも、逆に意味のない過剰な接待をしていて、実は働いている人はサービス残業が当たり前。それってブラックなんじゃないの?という論調です。おもてなしが日本のブランドを上げている一方で、そこには自己犠牲を強いられている社員の姿もある、と。

 でも、日本に住んでいて、日本語の機微が分かる僕からすると、いやー、そう簡単な話じゃないっすよ、とか思っちゃうわけです。