当たり前を「健全に疑い続けること」が大切

 僕が嫌々ながら結局ハーバードで身に付けたのが、議論する力です。あとは、子どものころからずっとあった「なぜ?」という視点。今、当たり前のことが、なぜそうなんだろうと健全な疑問を抱き続けること。その習慣を持つと、思考回路に付加価値が生まれます。

 でも、僕の受験世代って「なぜ?」ができないんですよね。例えば「何でこんな受験勉強しているんだ?」っていうのは最大のクエスチョンです。でも、「こんなことをやっていても幸せになれないのでは」なんていう疑問を持つことが許されない時代に育ってしまった。

 日本の女性がフェミニストをたたくという現象があります。なぜかと言うと、これは仮説ですけど、我慢を積み重ねてそれなりの幸せを勝ち取った女性は、「そんな我慢は最初から必要なかったんだ、あなたは戦うべきだったんだ」と言われると、自分を否定されているようで腹が立つからじゃないでしょうか。

 新しいことを求める若い人たちに対し、大人は知らず知らずのうちに反発し、攻撃するようになっていると思うんです。そこにあるのは、新しい価値観を嫌い、自分らの価値観をそのまま若い人たちに古文のように反映してほしい、自分たちを肯定してほしいという心理。でもそういうことをしていたら、日本はやっぱり衰弱していくでしょう。

 本当は大人だって、生き方を全部変えることはできるんです。僕と同じ55歳の人だって、今まで会社で何十年も働いたんだから、起業の仕方だって分かるはず。やればいいんです。でもそんな冒険は頭のソフトウエアに入っていない。恐怖心が強過ぎて、無意識に引き返してしまう。冒険しなくなってしまった大人ほどたちの悪いものはありません。子どもに外へ飛び出す力を身に付けてほしいと思うなら、親だって冒険を続けないとダメですよ。

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美 写真/坂斎清)

 
モーリー・ロバートソン
モーリー・ロバートソン 1963年、ニューヨーク生まれ。日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学とハーバード大学、MIT、スタンフォード大学などに同時合格。東大を1学期で退学し、ハーバード大へ。電子音楽とアニメーションを専攻し、88年に卒業する。84年、在学中に刊行した自叙伝『よくひとりぼっちだった』(文藝春秋)が5万部を超えるベストセラーに。大学卒業後は日本に拠点を置き、ラジオパーソナリティーとしての活動を経て、現在は国際ジャーナリスト、DJ、ミュージシャンとして幅広く活躍中。「スッキリ」(日本テレビ)、「所さん!大変ですよ」(NHK総合)などにレギュラー出演。近著に『「悪くあれ!」窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)。