さまよえる20代を経て、はみ出すことを恐れなくなった

 そしてもう一つハマったのが神秘主義です。占い師や霊能者を訪ね歩いたり、合気道と魔術をカクテルしたり(笑)。そんなことをしているうちに、26、7歳のころ、むちゃくちゃモテた時期がありました。

 メーン州にある、町中ほとんど顔見知りみたいな小さな田舎の町で、ひと夏の間にどんどん女の子と付き合いました。不器用だったので、相手から一夜にしてフラれることもありましたけど、僕としてはすべての関係に真面目に向き合っていたから、たとえ1日で別れても傷ついたりしていました。

 仕事はアルバイトみたいなことをやっていましたが、いつも続きませんでした。自分が持っている日本語のスキルが、アメリカの片田舎では何の意味もなかった。日本語がしゃべれるといっても、それが本当かどうか誰も判定できなくて、信じてもらえませんでした。日本語で書いた本が出版されていると言っても、「それって自費出版だろ?」みたいな感じです。自分の価値を全然認めてもらえませんでした。

 でも、そうやって若いときにフラフラさまよい、傷ついては自力で立ち直る経験を繰り返したことで、社会の枠組みからはみ出すことを全く恐れなくなりました。

 当時も野望だけは大きかったです。ロックスターになること、それも、前衛的な訳の分からない音楽をやって、それにみんなが熱狂している状態をつくること。ストラヴィンスキーみたいに難解な音楽なのに、ジミヘンばりにうぉーっとなる。両者を組み合わせるっていうぶっ飛んだことを構想していました。

 これ、実は今も目指していることなんですよ。DJ活動で揺るぎない地位を築いたら、それを少しずつ崩していくの。DJが入り口なんだけど、だんだん現代音楽になっていく仕掛けを作って、みんなが頭の中で音楽の旅をしてしまうような……。ただ、お金がかかる話なので、まずはテレビで資金を稼ぐことが現実路線というわけです。