報道からバラエティーまで、メディアで幅広く活躍する国際ジャーナリストのモーリー・ロバートソンさん。時事ニュースの本質を鋭く解説するかと思えば、バラエティーではノリノリできわどいトークも披露するなどその姿は硬軟自在。実は東大とハーバードに同時合格という経歴の持ち主でもあります。

 日本とアメリカという二つのルーツを持ち、環境ごとにがらりと変わる「ルール」に翻弄されながら自己を確立してきたというモーリーさん。この連載では、その生き方や思考法から、決められたレールなどもはや存在しない、これからの社会を生き抜くために必要な力を探っていきます。初回は今の自分をつくり上げるきっかけになった、子ども時代のお話です。

「2時間座ってコメント10秒」の仕事でも断らない理由

 初めまして。モーリー・ロバートソンです。最近、よくテレビで僕を見かけませんか? バラエティーでも報道でも、基本的に依頼があれば何でも出まくっています。時には10秒コメントするために、ひな壇でお飾りのように2時間座っていることも。これってほとんど意味がないですよね。でも僕はこういう仕事であっても、完全に無批判で受け入れます。それはなぜか?

 たわいのない出演でも、それを繰り返していくと顔の認知が増えて、いるだけで視聴率が上がるという現象が起こったりします。そうすると、もう少しちゃんと出演する番組でも、ステータスが上がるのね。報道番組で発言権を高めたかったら、ワイドショーとかクイズ番組に出まくったほうがいい。そういう「戦略」です。

 機会は最初からフェアに与えられるものではありません。ただ、不公平さの中には法則がある。だったらそこを攻略したほうがいいと思っています。

 求められる役割は何だってやります。スタジオに用意された料理やスイーツをみんなでもぐもぐ食べながらしゃべってください、とかね。ただ、ジャーナリストとして嘘だけはつきたくない。例えば「世界中の人が日本の〇〇をすごいと言っています」みたいなコーナーで、実際そんな話はないのに、番組の都合上あるということでコメントしてくださいと言われることがあります。こういうものは拒否します。

 自分の軸がない人だと、テレビで売れたいと焦って、やみくもに媚びるようになります。でもこっちは戦略的に媚びている。相手が求めることを何でもやっていると見せかけて、いつかはテレビそのものをジャック! 僕にはその先に実現したい野望があるんです。

 意味がないと思うことを避けるのではなく、攻略する。これは僕の人生で反復されてきたパターンです。受験勉強に真っ向から挑んで東大に合格したのもそう。知性ではなく解答の「技術」を競う勉強法なのに、それをわざわざ克服して、みんなから勘違いで褒められるのをジョークにしようと思いました。勉強もせずにシステムの外から「これは変な競争だ」と批判だけしても、ただの負け組扱いしか受けません。説得力を持ちたかったんです。

 こういう生き方をするようになったのは、日本とアメリカを行き来した子ども時代の影響が大きいです。求められるルールも学習スタイルも全然違う環境に身を置いたことで、「なぜ?」と思う視点が生まれました。理不尽な環境に鍛えられ、若いころから生傷をつくっては自分で癒やして、次に向かうということを繰り返してきた。おかげで相当に世界観が広がって、はみ出すことを恐れなくなりました。