花粉症やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーの人が増え、もはや日本の国民病ともいえる“アレルギー”。2014年に「アレルギー疾患対策基本法」が成立し、どの病院でもガイドラインに基づいた標準医療が受けられるようにしていくための医療の整備が、徐々にではありますが進められています。また、できるだけ乳幼児期から小児期にかけてアレルギー疾患を早期発見・早期治療し、重症化を防ぐための研究・治療にも力が入れられています。

この連載ではアレルギー児を支える全国ネットのNPO、アラジーポットが開催した「アラジーポット学びの場 講演会」から、一部を紹介します。今回は国立成育医療研究センターアレルギーセンター長を務める大矢幸弘さんの講演です。最近の研究で日本の家庭のほこりの中にはダニアレルゲンよりも鶏卵アレルゲンのほうが多く含まれていることが分かったという大矢さん。これが食物アレルギーを引き起こす原因にもなっているといいます。

【子どもの未来を守る アレルギー最前線】
(1) スギの舌下免疫療法は7~8割に有効 子にも可能
(2) アレルギー疾患発症予防は生後4カ月までが肝心
(3) 鶏卵・人工乳 早い摂取で食物アレルギー発症予防←今回はココ
(4) 保育園・学校・外食 社会のアレルギー対応は十分か

小児のアレルギー治療、「今までの常識」を覆す論文を次々と発表

国立成育医療研究センター アレルギーセンター長の大矢幸弘さん
国立成育医療研究センター アレルギーセンター長の大矢幸弘さん

 日経DUALでも紹介してきたように、「食物アレルギーの有症率は乳児が5~10%、保育所児が約5%、学童が4.6%と報告」(出典:「厚生労働科学研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017)されています。

 そんな中、「近年、小児アレルギー疾患の治療は大きく変わってきました」(国立成育医療研究センター アレルギーセンター長の大矢幸弘さん)

 約20年ほど前までは、アトピー性皮膚炎の原因は食物アレルギーなのではないかという考え方が支配的で、「子どもの鶏卵や牛乳のアレルギーを予防するために、妊娠中からこうしたアレルゲンの摂取を控えましょう」「アレルゲンを除去した食事を摂りましょう」「(アレルゲンを含む)離乳食も念のため遅らせましょう」という指導が多く行われていたと大矢さんは言います。

 ところがその後こうした「今までの常識」を覆す論文が次々と発表されるようになったのです。その一つが、「妊娠中からアレルゲンの摂取を控えても、予防にはならない」ということ。

 「臨床研究の中でも最も強いエビデンスといわれる介入研究のランダム化比較試験によって、妊娠中に鶏卵を食べたり牛乳を飲んだりするお母さんと、それを完全に除去するお母さでは、生まれてきた子どもの食物アレルゲンへの感作とアトピー性皮膚炎の発症に、有意差はありませんでした」

 また、離乳食の開始時期を遅らせることも、予防にはつながらないことが分かってきたと大矢さん。

 「(食物アレルギーの原因となる特定原材料の)卵や乳の離乳食開始時期を遅らせることは、最近まで多くの施設で指導されていましたが、残念ながらこれも予防にはつながらないと分かったのです。特に鶏卵とピーナツに関しては、介入研究のランダム化試験によって、摂取開始時期を遅らせると、それぞれのアレルギーが出やすくなることが分かってきました」