気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーなど、皆さんの周りにも何らかのアレルギー疾患を抱える人は、数多くいるのではないでしょうか。そんななか、2014年に「アレルギー疾患対策基本法」が成立。どの病院でもガイドラインに基づいた標準医療が受けられるようにしていくための医療の整備が、徐々にではありますが進められつつあり、研究・治療にも力が入れられています。

この連載では2月11日に国立成育医療研究センターでアレルギー児を支える全国ネットのNPO、アラジーポットが開催した「アラジーポット学びの場 講演会」から、一部を紹介します。今回は日本アレルギー学会理事も務め、日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医、そして国立成育医療研究センター 研究所長補佐を務める斎藤博久さんの講演です。斎藤さんは「赤ちゃんのうちからアレルギー疾患発症予防をしておけば、もしかしたら30年後にアレルギーの人がほとんどいなくなるかもしれない」と言います。

【子どもの未来を守る アレルギー最前線】
(1) スギの舌下免疫療法は7~8割に有効 子にも可能
(2) アレルギー疾患発症予防は生後4カ月までが肝心←今回はココ
(3) 鶏卵・人工乳 早い摂取で食物アレルギー発症予防
(4) 保育園・学校・外食 社会のアレルギー対応は十分か

アレルギー疾患による日本の経済損失は年間数兆円とも

国立成育医療研究センターで免疫疾患や感染症、アレルギー疾患に関する研究を行う研究所長補佐の斎藤博久さん
国立成育医療研究センターで免疫疾患や感染症、アレルギー疾患に関する研究を行う研究所長補佐の斎藤博久さん

 厚生労働省の調査によれば、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギー……その種類はさまざまながら、何らかのアレルギー疾患を持っている人は、日本人の半数、47.2%にも上るといいます。

 「これだけアレルギー疾患の人が増えたことによる経済損失は、年間数兆円ともいわれています」と斎藤さん。確かに処方薬一つとっても、安い薬でも数が多ければ負担は増えてしまうでしょう。ましてやぜんそくやアトピー性皮膚炎の患者さんが、抗体医薬(病気の原因となっている物質に対する抗体をつくり、体内に入れ、病気の予防や治療する薬)を使うようになると、その負担はさらに増えるとも。

 「抗体医薬の生産にかかるコストは一般薬の約8倍で、現在のアレルギー疾患の患者さんのすべてが使うと、約8兆円を超えるとも言われており、その負担は最終的には国民にもかかってきます。つまり現代に生きるわれわれがアレルギーを予防しなければ、将来の国民にまで莫大な負担を与え続けることになってしまうでしょう。だからこそ今、アレルギー疾患発症予防に取り組んでいるわけです」

 アレルギー疾患がIgE抗体によって起こることは、石坂公成・照子博士夫妻によって1966年に発見されました。当時の日本でIgE抗体陽性者は国民の2~3%程度にとどまっていましたが、20世紀後半からどんどん増えていると斎藤さんは言います。

 「現在、国立成育医療研究センターが中心になり、環境省で赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいる時から13歳になるまでの健康状態を定期的に調べる、出生コーホート(集団を追跡する)調査が行われています。この『エコチル調査』によれば、妊娠女性(20~44歳)の4分の3が、IgE抗体陽性者(アレルギー体質)であることが分かっています」。もはやIgE抗体が陰性の人を探すのが難しいくらいの状態なのです。

 ではなぜ、アレルギー疾患・体質の検査で陽性の人が増えたのでしょうか。